今年も最高に盛り上がったダブルイレブン(双11)が終了し、2,684億元(約4兆円)という記録的な売上を達成したアリババグループのTmall/Taobao。これはある一つのドラスティックなビジネス革命であり、このビジネス革命は中国経済の門外不出の秘訣となるだろう。
表面上は、我々はただ超大規模の「買う!買う!買う!」というイベントを見ていただけに思えるが、実はその裏で実現されたのは、中国ビジネスにおける先進的コントロールシステムであり、同時にこれは生産工業と消費者、プラットフォームと販売企業、ライブストリーミング(直播)とオンラインをうまく繋ぎ、中国経済の新しいモチベーションを代表する形となった。2019年の年末となった今からみて、2020年はおそらく大きなターニングポイントを迎える。ダブルイレブンの大きな歓声が過ぎた今、冷静かつ客観的にこのイベントの背後にある深淵なロジックについて分析してみよう。
2019年は「Eコマースライブスリーミング元年」
2019年のダブルイレブンではとても大きな変化と新しいクリエイティブな試みが出現した。その最たるものが、ライブストリーミング(直播)の勃興であり、2019年は「Eコマースライブスリーミング元年」と呼べるだろう。
Tmall、Taobao、京東(JD)、蘇寧(SuNing)、抖音(TikTok)、快手どのプラットフォームもライブストリーミング(直播)に対して力を注ぎ、大手を振ってライブストリーミング(直播)が商品販売を手掛けるサポートをした。この事も、今回のダブルイレブン売上新記録における重要な支柱となった。
今回のダブルイレブン後、Eコマースは既に「画像時代」から「ライブストリーミング(直播)時代」へとアップグレードされたのだ。
ビジネスロジックにも重大な変化が発生した。
もともと、「画像時代」にはEコマース販売企業はいかに画像のPS能力(PhotoShopを使った画像加工能力のこと。中国では画像をPhotoShop加工する事を“P図”と言う)を磨くか、という事が重要であった。そして、「ライブストリーミング(直播)時代」はあらゆる角度からリアルタイムに商品を見せる必要があり、いかなるPS加工も無力である。 ここに根本的な違いがある。
画像時代の消費者はまず、商品を以前購入した人のレビューを読み、顧客サポート(中国ではオンラインショップで購入前にほぼ必須でチャットにて質問を行う)にチャットで色々質問する必要があったのに対して、ライブストリーミング(直播)時代は直接インタラクティブにストリーミング配信者にアクションを起こすことができ、いつでも自由に色んな疑問を投げて回答が得られる。
未来の消費者は商品をこのように完璧に多方面から見るだけではなく、商品の全製造過程や、それぞれの生産工程を見たいと要望するだろう。これにより、全製造過程はますます透明化・公開化され、見える化していく。
ある人は疑問に思うだろう。「ライブストリーミング?それって20年前のTVショッピングじゃないの?」と。しかし、その20年前の番組と今のライブストリーミングには、本質的な違いがある。そもそもTVショッピング番組は基本的に編集が行われ、商品紹介時に何かアクシデントやミスがあった場合、カットして再撮影を行うことができる。対してライブストリーミングは、隠したり美化する暇がない。
モバイルネットワークの5G化や映像メディアの発展に伴い、将来のビジネスはますますオープン化・リアルタイム化・透明化の道を進む。
全てが可視化・直観化されトレーサビリティを持ち、商品であれ人であれ、充分な勇気をもって消費者やファンに直面しないといけなくなる。
以前の商品リリース前に、まずこっそりと隠れて画像のPS加工を行ったり、宣伝力のる文章を用意して商品を販売する時代はもう過ぎ去って戻ってはこないのだ。
何を売るかではなく誰が売るか
以前の画像時代には、我々はオンラインショップでまず見るものは商品だった。BtoB,BtoC風の言い方をすれば、(商)品to人となる。ライブストリーミング時代で我々がオンラインショップに入ってまず見るものは人=ライブストリーミング配信者であり、人to人となる。
つまりこのライブストリーミング配信者(中国語で主播)の役割・パフォーマンスがますます重要になってくる。今年のダブルイレブン期間で最大規模のライブストリーミング配信を行った2人(薇娅、李佳琦)のオンライン視聴者はそれぞれ、3,684万人と4,316万人だった。
これは、Eコマースの核心がまさに今「商品」から「人」へとアップグレードされている事を説明している。商品が核心だった時代は、我々は止まる事なく商品(写真)を美化し、商品コストを下げ、商品利益率を上げてきた。人が核心である今は、我々は商品の代わりに人を美しく磨き上げ、人的魅力を向上することで、その人物のカリスマ性・スター性を創り上げていく必要があるのだ。
つまりこんな風に理解しても良いだろう。
未来のビジネスは、何を売るかではなく、誰が売るかのほうがより重要だ。
ソーシャルメディアの発展に伴って、今は消費者を一堂に惹きつけ、同時に消費者のニーズに敏感な人たちが現れた。これが、ライブストリーミング配信者(主播)、インフルエンサー(网红:網紅)、有名ブロガー(大V)などである。
未来のビジネスはもはやブランドの企画能力ではなく、ある人が消費者の中で協力な吸引力を持つかどうかが問われる。「商品を作る」から「群衆を集める」へと、販売企業の能力のアップグレードが行われる。
一方で、大衆の注意力はもともとの商品ブランドに対する信頼から、人(ライブストリーミング配信者、インフルエンサー、有名ブロガー)への信頼へと遷移している。
ライブストリーミング経済、インフルエンサー経済の本質は一種の消費者を一堂に集める芸術であり、ビジネスは「物で人を集める」から「人をもって群衆を分ける」という過程を迎えている。
未来のビジネスは、人の信用がブランド(や企業)の信用を上回る。ビジネスロジックの根本的変化がこの背後に反映されることとなる。伝統的ビジネスは商品が核心であり、未来のビジネスは人が核心である。
「ニーズに応じて即生産時代」
最後に、これらの人を巻き込み惹きつけることが得意なインフルエンサー(网红)の誕生後、彼女たちはいつでもどこでも購買ブームを引き起こしてきただけでなく、さらにはファン達を集めて企業にカスタム商品まで作らせてきたのだ。
少し前になるが、中国人にとってはとても面白いニュースがあった。日本とヨーロッパの化粧品製造業者が、中国のEコマース(インフルエンサー、网红)ブランドのためにOEM生産を行うというのだ!
日本Cosmo Beauty株式会社の山添隆社長も「以前は中国が日本ブランドのためにOEMを行ってきた。今は、日本の工場が中国ブランド(しかもインフルエンサーのような個人)のためにOEMをする時代だ!」と、感慨を述べている。
インターネットの発展が一定の段階に達すると、必然的にCtoF(消費者to工場、中国語で客厂)モデルが誕生する。
今は、あらゆるインフルエンサー(网红)とEコマースブランド達がこぞってこの機会を逃さず、ライブストリーミング等のソーシャルツールを利用して消費者ニーズをキャッチし、予約オーダーを集めて工場に生産を依頼する。商品の生産の後は、今や世界的に有名になった中国の強大な物流システムを通じて消費者の手に渡る。
未来の生産方式は必ず、「オーダー後に生産」であり、需要に応じた生産方式となる。未来の各商品は生産前に、消費者が誰かがわかっていて、在庫を大量に抱えてしまう、なんてことはなくなるだろう。
中国は今まさに「ニーズに応じて即生産時代」に入っており、商品のカスタム化だけではなく、生産のパーソナル時代の到来を意味している。これにより、中国社会全体のサプライチェーンもスクラップ&ビルドを余儀なくされる。
ダブルイレブンで垣間見えたメッセージ
一方、今回のダブルイレブンはまた、社会のある強大な訴えを照射していた。大量の中小ブランドを掘り起こしてくれ
というものだ。
多くのEコマース販売店舗と商品はブランド化を進めている。過去のサプライチェーンの中で、年間営業額が高くても、多くの企業は代理店とか販売店だったにすぎない。伝統的な大量卸売時代に掲載されたのはこのような販売チェーンであり、ブランドが軒並み立ち並ぶブランド林立ではなかった。
過去では、ある市場の規模は100億円程度で、50社位の企業が存在した。未来の1000億円規模のあるしじょうでは、2000社位の企業により構成されるだろう。
10年前の中国の日用品を思い出してほしい。おおかた、P&Gが市場を独占していたではないか。それが現在では、あらゆる小粒のブランドが立ち上がり、それは特定の機能を持ったり、特定の層に向けてカスタム商品を作りだした。未来はもっと多くの小粒の悪くないブランドが誕生するだろう。
本質を突き詰めると、これが中国ITネットワーク高度繁栄がもたらした市場の分化であり、販売企業は各種のプラットフォームが持つ消費者に接触して、自社商品やサービスを提供するチャンスがある。
未来は充分なアイデアとそれらの特定の層を囲い込む気さえあれば、あなたも自分のブランドを確立するチャンスがあるのだ。
これ以外にも、中国ビジネスのコントロールシステムはアップグレードを続けている。今年のダブルイレブン開始の0時以降すぐ、注文数の瞬間ピーク値は54.4万オーダー/秒という世界記録を達成した。これは2009年の第1回ダブルイレブンの1,360倍という数字にもかかわらず、システムは1つのダウンも発生しなかった。
なぜならアリババは、2か月も前に10万以上の物理サーバーのコアデータを、オフラインのデータセンターからクラウドへと移行していたからである。この速度はアマゾン、マイクロソフト、グーグルを上回っている。
この11年で、ダブルイレブンの売上額は7.5億円から4兆円へと成長し、現在のAlipayは2分以内に1500億円以上の支払処理が行えている。物流面でも、京東(JD)はダブルイレブンの殆どの商品で当日配達と翌日配達を可能にした。
これらはすべて、中国ビジネスがシステムアップグレードに対して周到な準備を行ってきたからに他ならない!
2019年はダブルイレブン(双11)の11周年であり、この11年を振り返ってみると中国経済にはすでに天変地異レベルの変化が起こっている事がわかる。
11年前、中国消費がGDP成長に対しての貢献率は50%以下にすぎなかった。11年後の今、80%を超えると言われている!
11年前、中国は「売れ!売れ!売れ!」とお金を獲得する事に必死だった。
11年後の今、中国は「買え!買え!買え!」とお金を消費する事に必死である。
11年前、中国は製造業大国であった。
11年後の今、中国は消費大国である。
11年前、生産が消費を決定していた。(生産されたものを消費するしかなかった)
11年後の今、消費が生産を決定し始めている。(何を消費したいかで生産が決まる)
11年前、中国経済成長は工業化に頼っていた。
11年後の今、中国経済成長はモデルの創出、革新を頼りにしている。
11年前、中国の我々はインターネットが実体を消滅させると声高々に叫んでいた。
11年後の今、中国の我々はインターネットは必ず実体を包括しないと存在できないと気づいた。
11年前、中国経済は世界の牽引に頼っていた。
11年後の今、中国経済は世界を牽引し始めている。
これら以外にも注目に値する数値データがある。
ダブルイレブンの1日前の11月10日、上海輸入博覧会が閉幕したが103か国および地区からの1,367企業が出展し、3,258社のバイヤー企業と商談を行い、2,160件の成約があり、成約額は711億ドル(約8兆円)であった。
ダブルイレブンは中国中のものが買われ、輸入博覧会は世界中のものが買われたのだ!
世界から見ると、中国の未来の役割は1つのデータの節目である。中国のEコマースはすでに世界最高水準であり、越境Eコマースがその他の国に浸透していく事を加味すると、中国は一種のグローバル大規模生産を組織することになる。これらのグローバル大規模生産は、アメリカ主体の伝統的グローバルサプライチェーンを真っ先に壊していくことになるだろう。
中国の未来は全世界の消費者と全世界の生産者を直接マッチングさせ、国を跨いだ生産とカスタムを実現させていくだろう。未来の社会はニーズに応じたカスタム生産を実現させ、興味に応じたグループ結成を実現させ、特定ユーザー群に応じたサービス、小規模政策、とどまる事なき世代交代により、多様化の商品が多元化するニーズにマッチングしていく。
ニーズに応じた生産があれば、我々は徐々に需要に応じた分配という過渡期を体験してくだろう。なぜなら、ニーズに応じた生産は、カスタム化、多元化を意味していて、社会の物質商品がどんどん多様化し、それぞれの人が自分の需要に応じて必要なものを獲得していく時代になる。そうなれば、伝統的な競争や競い合って先に奪うといった原始的行為は意味をなくして社会の様相も変わるだろう。
多くの人は、この中国ビジネスで今発生している極端かつ深淵な変革を、まだ意識していない。中国はまさに今、世界経済の新しい成長の一角を牽引しているのだ。
ブレークスルーにはかならず新しい概念の出現を伴う。中国はまさに今新ビジネス元年を迎えた年となった。
この記事を書いた人
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