2024年、訪日外国人観光客数は過去最高を記録し、日本政府は2030年に「訪日客6,000万人・消費額15兆円」を目指す中で、今後の成長動向が注目されています。本記事では、株式会社ENJOY JAPANが独自の「訪日期待値指数」と多項式回帰モデルを活用して算出した、2030年の訪日観光市場の未来予測を詳しく解説します。

訪日外国人観光客数は最大7,500万人に到達の可能性も

当社が独自に作成した訪日期待値指数および国別動向をもとに2030年を予測した結果、訪日外国人観光客数は理論上では最大で7,500万人に達する可能性があります。

ただし、地方分散が進まない場合、東京・大阪などへの一極集中による空港や宿泊施設の供給不足が予測され、この場合の上限は5,500万人まで下がると想定されます。さらに、宿泊施設の供給不足や観光従事者の人手不足が解消されなければ、4,980万人という下限シナリオも現実味を帯びています。

予測条件ならびに定義について

  1. JNTO訪日外客統計(月別推計値)2003年~2024年の訪日外国人観光客数を推移から参考モデルを作成。
  2. 国土交通省国際定期便参照:空港別動向(2024年 夏/2024年 冬)※ただし、空港拡張計画や新滑走路計画が公表されている情報は考慮する。
  3. ENJOY JAPAN算出:訪日潜在値指数(該当国の今後の訪日客成長度合いを示した数値となります) 
  4. 宿泊施設の稼働率:2025年2月観光庁 宿泊旅行統計調査参照
  5. 宿泊施設の推移:令和6年度衛生行政報告例参照

※注:指数関数の説明(定義)

算出方法

  1. x(訪日期待値)とは、(1年あたりの当該国の訪日外国人観光客数÷該当国対象国人口)×(米ドル換算で日本の一人当たりGDP/当該国の一人当たりGDP)をもとに算出した数値。
  2. 訪日の経験人数から潜在的な人数を把握するとともに、経済的な豊かさ(一人当たりGDP)が訪日可能性に影響するため、考慮した数値を作成。
  3. 0.32…訪日外国人最大値0.32と設定:訪日観光客実績数値より、訪日経験比率ならびに一人当たりGDPがともに高い香港エリアを参考に分析・算出 ※香港エリアにおける2025年から2030年までの一人当たりGDPは、米ドル換算で年率2%の成長を仮定

指数関数の出力の上限である「100」は、過去のデータに基づいた「潜在的な訪日者数の最大値(上限)」を意味しています。指数の値が100に近づくほど、その国・地域からの訪日者数がすでに上限に達している、あるいは非常に近い状態であることを示します。したがって、指数が高い国ほど「これ以上の大幅な増加が見込みにくい」可能性があり、逆に指数が低い国は「今後の伸びしろがある」ことを意味しています。

【国別】2030年の訪日観光客数予測と成長可能性

グラフ①訪日潜在値指数

中国:再びトップに、2000万人超へ

  • 潜在値指数:12.5
  • 2025年比で2倍、2030年は2,022万人と予測
  • 成長余地が高く、引き続き重点市場

韓国:成熟市場、成長鈍化の兆し

  • 潜在値指数:68.39(高水準)
  • 理論値:1,200万人以上だが、現実的には900万人台

台湾・香港:訪日経験率が高く、成長は限定的

  • 台湾:指数84.04、2030年は700万人台
  • 香港:指数87.96、300万人台で推移と予測

タイ:理論値では345万人も、現実は地方分散の遅れで200万人台の可能性あり

  • 潜在値指数:43.36
  • 理論値:350万人近くになるが、現実的には200万人台か

アメリカ:成長余地は大きいが、地理的課題

  • 潜在値指数:3.81
  • 2030年は400〜500万人台

オーストラリア:航空便次第で200万人突破も

  • 潜在値指数:14.44
  • 2030年には240万人超の可能性

2030年までの成長シナリオ予測 ~訪日外国人客数推移~

グラフ②2030年訪日予測
理論最大値政府目標人気空港集中宿泊施設制限
20254,352万人4,108万人4,038万人4,026万人
20265,004万人4,454万人4,322万人4,296万人
20275,561万人4,789万人4,590万人4,508万人
20286,065万人5,150万人4,875万人4,669万人
20296,649万人5,741万人5,340万人4,789万人
20307,308万人6,000万人5,537万人4,980万人

当社が指標とする訪日潜在値指数どおりで予測した場合、理論値(予測最大値)で7308万人と予想されます。ただし、地方分散が進まない場合、東京や大阪などの人気エリアに一極集中する為、受け入れ先となる空港や宿泊施設のキャパシティが限界となり、成長率が緩やかな曲線を描き、伸びが鈍化すると予想されます。したがって、6000万人を受入空港の供給キャップとした際に、人気空港(羽田空港・成田空港・関西国際空港・福岡空港)のみが増加※滑走路拡張計画も考慮、非人気空港(4空港以外)が現時点での受入体制をキャップとした場合、2030年の訪日外国人観光客は5537万人と予測されます。

宿泊施設数の増加や稼働率の増加が見込まれないとした場合、さらに5000万人を下回る可能性もあります。観光事業に関わる方の人手不足などの解決も今後の成長を支えるうえでも非常に重要なカギを握っていることは間違いありません。

観光従事者不足や施設不足が解決されたとしても、当社で行った6国・地域(韓国/中国/台湾/香港/タイ/アメリカ)のヒアリングやアンケート調査では、地方への分散にはまだまだ時間がかかる可能性が高いと思われます。2030年の訪日外国人観光客6000万人達成には、地方の魅力発信は急務です。その為にも、地方自治体や民間事業者が一体となって、総合的な情報発信を対象国ごとに合わせた適切なメディア選定が重要となってきます。

いくら素晴らしい情報・コンテンツだったとしても、訪日外国人観光客に届かなければ意味がありません。

国別2030年未来予測 ~訪日韓国人客数推移~

グラフ③訪日韓国人予測

※2024年訪日外国人客数数値は、JNTO(2025 年 1 月 15 日)公表数値となります。

2024年はトップを独走した韓国ですが、当社が指標とする訪日潜在値指数:68.39と高く、今後さらなる成長を期待するのは難しいと思われます。そのため、緩やかな成長曲線を描きながらも、状況によっては、前年を割り込む年も出てくることが予想されます。

訪日潜在値指数からの理論値では年1200万人を超えることも予想されますが、現実的な数値としては、2030年:6000万人ベースで、900万人台となると思われます。

国別2030年未来予測 ~訪日中国人客数推移~

グラフ④訪日中国人予測

※2024年訪日外国人客数数値は、JNTO(2025 年 1 月 15 日)公表数値となります。

2024年は韓国にトップの座を譲り渡したものの、2025年にはトップには返り咲くと予想しています。当社が指標とする訪日潜在値指数は12.5となっており、まだまだ成長が期待できる国だと思われます。理論値上は2701万人と予測しておりますが、受入体制などを考慮した場合:6000万人ベースで、2030年には2025年の倍の2022万人が訪れると予測しております。

国別2030年未来予測 ~訪日台湾人客数推移~

グラフ⑤訪日台湾人予測

※2024年訪日外国人客数数値は、JNTO(2025 年 1 月 15 日)公表数値となります。

台湾については、既に訪日経験が非常に高く、今後のさらなる成長は非常に難しいと思われます。当社算出の訪日潜在値指数も84.04と高い状況ですが、潜在値指数(理論値)上では、900万人台まで成長が予測されますが、2030年6000万人数値の場合は、700万台と算出しております。

国別2030年未来予測 ~訪日香港人客数推移~

グラフ⑥訪日香港人予測

※2024年訪日外国人客数数値は、JNTO(2025 年 1 月 15 日)公表数値となります。

訪日潜在値指数が最も高い(指数:87.96)香港は、台湾同様に大きな成長は難しいと思われます。ただし、一人当たりGDPが高い香港は、日本への訪日数が微増していくことが理論値上では、予想されます。

また、複数回の訪日が期待される地域でもあります。ただし、人気観光地が集中する場合は、前年割れするケースも今後で出てくる可能性があります。我々の計算では、2030年は300万人台と予想しております。

国別2030年未来予測 ~訪日タイ人客数推移~

グラフ⑦訪日タイ人予測

※2024年訪日外国人客数数値は、JNTO(2025 年 1 月 15 日)公表数値となります。

タイについては、訪日潜在値指数上の理論値としては、2030年には345万人と予測しています。ただし、夏の訪日需要が上がらない可能性があることと、人気エリアが集中しやすい可能性が高く、地方分散が進まない可能性があります。その場合、200万人台でとどまる可能性もあります。

国別2030年未来予測 ~訪日米国人客数推移~

グラフ⑧訪日米国人予測

※2024年訪日外国人客数数値は、JNTO(2025 年 1 月 15 日)公表数値となります。

一人当たりGDPも高く、また人口も多いアメリカにおいては、訪日潜在値指数3.81と、数値上は今後さらなる成長が期待できます。

しかしながら、アメリカの場合は人気空港が玄関となる可能性が高く、他の地域への分散がどの程度進むのかなどの未知数な部分が多く、我々どの予測では、2030年数値では400万人台から500万人台になると予測しております。

国別2030年未来予測 ~訪日オーストラリア人客数推移~

グラフ⑨訪日オーストラリア人予測

※2024年訪日外国人客数数値は、JNTO(2025 年 1 月 15 日)公表数値となります。

オーストラリアは、訪日潜在値指数14.44で、さらなる成長が期待できる国の一つです。ただし、アメリカ同様に航空便の状況が大きく影響する可能性があります。2030年には、200万人台と予測しています。成田国際空港の新滑走路によって、訪日潜在値指数算出からの理論値(240万人)をさらに上回る可能性もあります。


この記事を書いた人

中山 隆央(Nakayama-Takao)

中山 隆央(Nakayama Takao)

2008年、株式会社東急エージェンシー入社。国内企業・外資企業を担当し、2016年より30歳(当時最年少)にて部長職として、営業部門を統括。2017年より、ENJOY JAPANに参画し、日本企業の中国市場展開(マーケティング・越境EC)、中国企業(エンターテインメント系)の日本進出を担当。

≫このライターの記事を読む