ENJOY JAPANの瞿史偉です。久々のコラムとなりましたが、「中国の春節を前に2022年の中国のネット業界・デジタル関連業界がどうなっていくのか?」私の予想を書いていきたいと思います。
この記事の内容は、当社YouTubeチャンネルでも発信していますので、ぜひそちらもご覧ください。この記事の最後に動画を入れています。
\【最新】2023年版公開中/
資料を無料配布中!
中国ネット広告関連業界の現状と背景
昨年の中国の経済状況を振り返ってみると、前半は予想以上に輸出が好調だったこともあり他の国に比べると高い成長を維持しましたが、後半では”共同富裕”という大きなテーマがかかげられ、不動産抑制、独占の禁止、高収入者の納税調査などが次々と行われました。対策自体には間違いはなかったと思いますが、予想以上の副反応が起こり中国の経済成長が急速に暗転し、不安な声が大きくなっています。 これには当然中国政府も気付いていて、実質金利を下げるなどの安定化への対策を打ち始め、2022年は企業への締め付けなどはもう少し緩やかになると思われます。
我々の関わる中国のネット広告やマーケティング業界はこういった社会情勢や経済状況に大きく影響を受けます。今後、現在や将来にかけて世の中全体がどのような方向に動いているか、常に観察し続けることが必要になります。
【2022年】中国ネット広告関連業界で予測される10のこと
前置きが長くなりましたが、現在の社会、政治、経済情勢などを踏まえた上で、2022年の中国ネット広告業界に関連する10の予測について書いていきます。
※1から4までは中国ネット業界全体の広い話で、5以降はTmallやwechatなどの具体的なプラットフォームについての話となります。
1. ネット利用者数、利用時間、利用頻度などの高成長はもう期待できない
中国のインターネット利用者、WEBサービス利用者は2021年6月時点で10億人以上に達しており、以前のような10%を超えたような成長は見込めなくなり飽和していきていると言えます。
そのため、利益より先に規模拡大を優先するビジネスモデルは通用しにくくなっています。その他にも人口増の鈍化、国の独占禁止策などの側面からも逆風を受けていて、近頃よく報道される大手IT 企業のリストラ計画はその一端を表しています。
業界全体に関する予測としては、2022年のネット関連企業は、ユーザー数などを追求していた規模の拡大よりも質の追求、つまり利益の確保に重きをおくと思われます。
2. ユーザーに何を見せるのかを優先する流れに
ネット市場自体の成長が止まってしまっている以上、企業側としては今までアプローチ出来ていなかったユーザーに対しても広く浅くコミュニケーションを取っていくことのメリットが薄くなった上に、コストパフォーマンスも悪くなりました。 今までは、IMP数やPV数、いいね数などの数字をKPIにして、多くのユーザーに当たり障りのないようなメッセージで商品の良さを伝える広告がメインとなっていましたが、
今後、より具体的なサービスや商品の良さが理解されるような広告コンテンツを、プラットフォーム毎にそれぞれのユーザーに合わせて作成していく必要が強まっていきます。
例えば、同じ商品でも一方ではビリビリ動画でアニメコンテンツとタイアップしたプロモーションを行いながら、小紅書では綺麗なKOLやタレントとタイアップをしたクリエイティブでプロモーションを行うなど、特定のユーザーに向けた広告コンテンツの配信がますます増加していくでしょう。
3. プロセスエコノミーの発展
日本でもプロセスエコノミーという言葉が昨年から話題になっていると思いますが、中国でも浸透していくと考えています。
オンライン上でのコミュニケーションの発達とDX化により、ユーザーには完成後の商品の宣伝だけではなく、商品作りの段階からユーザーからのフィードバックを取り込むことができるようになりました。そのおかげで商品開発の方向性や在庫リスクを低減すると同時に、商品開発の能力を上げることができます。
具体例を上げると人気ブランド「元気森林」のD2C(Direct To Consumer)でのテストを行いました。「元気森林」はWeChatのプライベートドメインを運用し、「元気森林」の会員に向けて企画段階の商品を複数パターン送り、様々な意見をもらいながら商品を開発しています。 このことにより商品開発スピードが早くなるだけでなく、既存会員のロイヤリティ向上や会員になりたいというユーザー=ファンの獲得に繋がっています。小紅書(RED)はこのプロセスエコノミーについて2022年の新戦略を出しているので、後半の小紅書の中でお伝えします。
4. 新技術の導入
ここ1、2年で、VR技術が非常に早いスピードで進化してきています。
そのため、アバターが行えることが確実に増えてきていて、人とのコミュニケーションなどがますますスムーズにできるようになっています。アバターの活用技術が進化してくると、企業にとっては休日や休憩時間の必要がなく、複数同時並列でライブ動画による商品宣伝ができたり、顧客対応全般ができるような強いツールを手に入れたことになります。
最近の事例だと伝統的なハイブランドの旅行小売業大手のDFSが、ReddiとVilaという2人のアバターを「チーフ・ギフト・レコメンダー」として起用し、旧正月期間中Weibo、WeChat、REDなどのSNSで世界中の消費者に伝統的な新年のギフトをPRすると発表しました。このような例が今年は一層多くなってくると思います。
5. Alibabaの変化
アリババグループは創業者のジャック・マー氏をきっかけに、中国政府の独占禁止策などで主な取り締まり先となりました。ジャック・マー氏もメディアにはほどんど顔を出さなくなり、アリババグループ内部でも大きな組織再編が行われています。
2022年にTaobaoとTMALLの運営を統一するなど、組織の基礎体力を上げることが中心の守りの体制が多く見られると思います。
日本ブランドは中国現地ブランドとの競争がより厳しくなる
中国のメーカーや販売者にとっては、いままでTaobaoは個人店舗と中小企業向けのプラットフォームで、TMALLは中堅から大手向けという壁が存在しなくなり、中小企業が今まで受けられていなかったアリババからのブランド育成のためのサポートを受けられる期待が高まっています。
2021年時点で、中国全体の消費金額の20%がアリババ経由となっておりアリババの中国での社会的責任はより大きくなっています。そこに新しい中国国産のブランドが次々と生まれてきている以上、アリババには国産ブランドを育てるという責任も暗に求められています。国産ブランドはアリババからの手厚いサポートを得ることができれば、新製品のリリースのタイミングから成長への重要なステップを走り抜けることができる可能性が高くなります。
実際に2021年は、新商品の販売が16%増加しました。また、売上高100万元(約1800万円)以上の店舗も15万店以上増加しました。
今回のTaobaoとTmallの基幹業務が統合されることによって、より質の高い中国の新ブランドが誕生することはほぼ間違いありません。そのため日本ブランドは一層厳しい競争にさらされることが予測できます。
6.微信(wechat)について
今年は微信がECや広告で大きく伸びると思っています。
その大きな理由は「視瀕号(Channel)」です。 「視瀕号」とはライブ配信や、TikTokのようなショート動画が投稿・視聴できる機能です。 微信は、中国のモバイルユーザーのほぼ全員が利用していると言われています。これらの強みを活かし、
- 企業公式アカウント(公衆号)
- ミニプログラム(販売ページ)
- ユーザー個人やグループとの連動機能(クーポンや紅包など販促)
- 視頻号(ライブ・ショート動画)
微信のアプリ内で上記の一貫して利用できる機能を組み合わせたアプローチ方法で、2021年末の全体売上は2021年初頭の15倍以上に増加、プライベートドメイン取引が50%以上、顧客平均単価は200元以上、全体再注文率は60%以上となりました。
2022年はこれ以上に成長していくと思います。企業にとっては直接ユーザーと密接なコミュニケーションが取れることに大きな価値を感じています。
- ライブ配信の紅包「おひねり」がWechatグループに直接送付できる
- ライブ配信の視聴予約機能・リマインド機能
- ライブ配信時の視聴データ分析機能
また、の上記の3つの要素が今年強化されることにより、ライブ配信プラットフォームの中で微信が最も高い成長が予想されます。急成長するタイミングなので日本企業にとっても大きなチャンスがあるプラットフォームとなります。
7.小紅書(RED)について
小紅書は私も関係の深い企業なので長くなりそうですが、なるべく短めにまとめます。 小紅書もほかのプラットフォームと同じく、2021年のユーザー数と利用時間はすでに頭打ち状態になっています。
また昨年は「写真を盛りすぎた宣伝」などで炎上して、その他にも「富を誇示するような投稿」など、政府の方針に沿わないコンテンツに対する自主検閲を迫られるなどの逆風も受けています。
話は少し逸れますが、昨年末から現在にかけて大規模なステルスマーケティング対策も自主的に行っています。日本企業の多くも行っている「大量のKOCを起用して口コミを集める方法」はペナルティを受ける可能性が高いので控えたほうが良いでしょう。
小紅書にとっての2022年は、少しリッチな女性達の宣伝媒体というイメージからの脱却とともに、確実に利益を上げるビジネスモデルを構築したい一年で、その方向としては以下の2方面を私は予測しています。
①ユーザーの多様化
プチリッチな女性達ばかりでなく、多様なユーザーが継続して使ってくれるコニュニティーを構築するために、女性ばかりのプラットフォームではなく、男性ユーザーの利用者を増やす施策を打っていくと思われます。同時に、いままでのコンテンツを記事(文字+写真)がメインから動画主体になっていくよう変更していきます。
②新たな収益源の構築
現在の主な収益源は広告収入で、収益を上げるために今までは広告とユーザーの接点をいかに増やすか、ということに注力をしていましたが、これからはもう一歩踏み込んで、ブランドが製品を作る計画の段階から、ブランドと一緒に製品とユーザーの接点を拡大するための支援を行います。前半でお伝えしたプロセスエコノミーの強化です。
小紅書からブランドに対してツールや蓄積しているデータの提供・分析を通じて、ユーザーのニーズを洞察し、必要であれば軌道修正を行いながらブランド・プラットフォーム・消費者の3者が一緒になって商品を作り上げる仕組みを準備しています。
また、元々自身の強みだと考えていたアプリ内での宣伝とECの一気通貫の仕組み、なかなか今まで大きな売上に繋げられていない状況ですが、これを強化していくと思われます。 日本企業にとって、小紅書の新しい価値は商品を宣伝するだけではなく、そもそもどういう商品を中国に持っていくべきか、どういう商品を開発するのが良いか。この段階から小紅書と組むことによって、中国での販売の成功率を高められると思います。 小紅書とのこのようなパートナーシップにご興味があれば当社までお問い合わせください。
8.Bilibiliについて
Bilibiliの2022年の基本戦略は、他のプラットフォームとの競争が激しくなる中で、自社の強みを生かしながら「若者(Z世代)」「二次元」「腰部コンテンツ(比較的小規模なコンテンツ)」を一層強化することを決定しています。
今まではもっと広くユーザーを獲得する動きもありましたが、JK風や二次元カルチャーなどの若者文化をより深堀りしていく方向に振り切ったように思えます。
2021年12月10日、Bilibiliはビジネスプラットフォームシステム「ブランドバンク」をリリースし、企業向けにデータの提供を開始しました。これにより企業はどのようなコンテンツとタイアップをすると良いのかなどの情報を分析することができます。 ビリビリはZ世代を中心とした若者のエンゲージメントを高めるためコンテンツを強化し、企業はそのコンテンツとタイアップすることによって若者とのコミュニケーションを取ることが可能になります。 元々日本の文化と相性が良いユーザーが多く、若者向けの商品を提供する日本企業にとっては情報をリーチしやすいプラットフォームでしょう。
9.抖音(Douyin)について
抖音を運営するバイトダンスが、2021年11月に「今日头条」「西瓜视频」「头条百科」「头条搜索」などの有力事業をすべて「抖音」のビジネスラインに移管したことは大きなニュースだと思っています。
バイトダンス社が「抖音」をWechatのようなスーパーアプリと同様の地位にしたいと考えているのは間違いありませんが、上記のような大きな組織変更の背景には、抖音の成長がすでに頭打ち状態となっていて、以前のような急成長が見込めなくなっていることにあります。
2021年6月17日、バイトダンスの2020年度の決算が発表されました。売上は前年比111%増の2366億元、粗利益は93%増の1330億元だった 一方、営業損失は147億元となりました。赤字の背景には、ユーザー数の伸び悩みがあります。2021年9月時点の「抖音」合計DAUは約6億4千万でしたが、DAUが6億を超えたと発表した2020年6月以降ほとんど伸びていません。 ユーザー数の鈍化に伴ってバイトダンスの主力事業である広告収入も2021年下期以降成長が止まっていて、2012年にByteDanceが設立されて以来初めて後退する結果になっています。
ショート動画業界自体のユーザー数が既に飽和状態になっているため、快手の強い農村部などのユーザー獲得を強化しつつ、EC事業の強化をかなりのスピードで行っています。EC事業は早いスピードで伸びていますので、日本企業としてもチャンスは多いでしょう。
10.MCN業界について
MCN業界にとって、2021年は最高の一年と同時に最悪の一年となりました。2021年のW11のセールでは、「薇婭(viya)」「李家琦(Austin)」の2名だけで200億元近くという異常とも言える売上を上げ、多くのMCNやKOL達は第2の薇婭(viya)と李家琦(Austin)を夢見ていました。
しかし、年末に薇婭(viya)が脱税行為で摘発をされ、莫大な罰金を支払わされると同時に、薇婭(viya)のアカウント自体もブロックされ、年間100億元以上の売上が無くなりました。業界にとってその衝撃はあまりにも大きく、業界全体へのダメージは計り知れません。 2022年は、MCN業界自体の進化はあるとしても、2021年に比べて成長自体がもう難しいという印象になっています。 成長が見込めない中でどのように業界が変化していくのかを予想してみます。
- 李家琦(Austin)のようなトップスターの育成を目指すことは諦めて、特定分野で安定した人気のあるKOLの人数を増やすことに注力する
- 技術の進化によって、Vtuberなどバーチャルアイドルを使って、24時間の商品宣伝、応対などをしていく
- 特定の企業と連動して、企業専用のKOLの育成と運営を行う
基本はスターというハイリスク・ハイリターンなパターンを取らずに、各分野にそこそこ強いKOLのクラスターを構成し、企業の要望に合わせてサービスを運用する形になっていくでしょう。企業にとって選択肢が増えると同時に、昨年までのような爆発的な売り上げは期待しにくくなると言えます。
まとめ
中国はご存知の通り移り変わりが早く、2022年も多くの変化が起きると思われます。 大きな流れとしては、どのプラットフォームも規模の拡大や顧客数の拡大が主戦場だったフェーズから、顧客ロイヤリティを高めて長く繋ぎ止めるための施策が重要なフェーズに入りました。
中国向けに展開をしている日本企業で大きな心配事の一つは中国の消費者が中国国産品を好むようになることだと思いますが、その流れは強まると思います。もはや日本製は強みにはならず、むしろ日本製とばかりアピールをしても逆効果になる可能性すらあります。 ただ、中国の消費者の目もとても肥えてきているので、良い商品か悪い商品かはすぐに伝わります。特徴ある良い商品やサービスを作り、それを念入りに調査したターゲットに、適切な方法や手段で、丁寧にメッセージを伝えていくという当たり前のことがより大事になってきています。我々ENJOYJAPANスタッフ一同、もっと皆様のお役に立てるよう努力をしていきますので、ぜひ本年もお付き合いいただければ幸いです。
\【最新】2023年版公開中/
YouTubeでも解説
今回の内容は、動画でも放送しております。 前編と後編に分かれておりますので、お時間ある時にぜひご覧ください。
前編
後編
この記事を書いた人
上海市出身。東京大学在学中にIT関連の会社を起業後、ENJOYJAPANを立ち上げ。中国人観光客向けのWEBメディアとフリーペーパー、旅行者向けの携帯端末レンタル事業立ち上げなどを行う。 現在は主に上海に拠点をおき、中国企業や在中日本企業の担当の他、日本企業の中国進出のサポートを行う。