昨年の旧正月明けに、「2022年の中国ネット広告関連業界で予測される10のこと」という記事をアップしたところ、多くの方に読んでいただき、好評をいただきました。今年も昨年同様に旧正月明け2023年の予測のコラムを出す予定でしたが、訪日インバウンド市場が急回復したことなどから、非常に忙しくなってしまい、かなり遅くなりましたが本記事にて、2023年の中国市場や中国ネット広告関連業界の予測をしていきたいと思います。主に、2023年中国全体の経済状況と背景、中国広告業界の展望、関連する企業の展望について述べています。

中国マーケティングにお悩みの方!
資料を無料配布中!

前置き:中国上海のロックダウン経験談

2022年を振り返ると、中国の通り移り変わりが早いとは言え、想像以上に波乱の一年でした。筆者は4月に中国上海のロックダウンを実際に経験し、ゼロコロナ政策によって圧倒的な力が発揮されたことに心底驚かされました。さらに、12月7日に突然発表・実施されたゼロコロナ政策からウィズコロナ政策への方針転換によってもたらされた混乱で、たった1週間ほどで上海に住む親戚のほぼ全員がコロナに感染することになりました。連日連夜、関係者から「誰々の症状がひどい」、「薬がない」などの連絡が入り、私も非常に混乱しました。今までも、日本経済の停滞した現状に嫌気が差すことがしばしばありましたが、中国社会についていくためには、日本のそれとは比べものにならないほど、タフな体と心を持っていなければ、絶対にやっていけないと感じました。

2023年中国全体の経済状況と背景

それでは本題に入りましょう。まず、中国経済全体の2023年の展望について、再度ゼロコロナ政策を実施するようなことはないと見ています。中国の中央政府は、コロナウイルスはインフルエンザウイルスと同様に日常生活に寄り添っているウイルスであり、現在最悪だと言われている国内経済の底上げに全力を尽くす必要があると考えています。

また、コロナの影響で何ができなかったという口実は通用しないと思われます。

現在、各地方政府が発表している2023年のGDP目標は、最低でも5%、最高である海南省では9%と予測されています。

2022年には皮算用のような雰囲気があった発表とは異なり、今回の発表は本気の目標だと見てよいでしょう。

また、現在の予測によれば、中国では「内需表現強、外需相対弱」と言われています。

つまり、2023年においてはアメリカを始めとする世界経済による外部需要は期待できず、中国国内における内需拡大で成長率を維持することしか方法はないと考えています。その文脈で、中国は今まで政策などによって意図的に抑えてきた部分、例えば不動産市場や大手プラットフォーム(アリババやテンセントなど)に対する規制の緩和が早急に行われると予想されています。

金利については、対ドルのレート調整もあるため、大幅に「元」が下がることは予想しづらいですが、中国版の金融量的緩和が行われる可能性があります。

特に新エネルギー業界や半導体業界などには、大量の銀行融資や外部資本が投資されると考えられています。こうした予測を背景に、中国の株式市場はいち早く反応し、2022年11月から2023年1月末までの期間に、日本の日経平均に相当する上海総合指数が10%以上上昇しました。また、2023年3月の人民大会で新しい総理(李強氏)が誕生した際には、経済の総責任者として、中国の諺でもある「新官上任三把火」に沿って様々な政策を発表することになるでしょう。突発的な問題がなければ、やや楽観的に見て、中国の2023年の成長率は6%以上になると思われます。

2023年中国インターネット広告業界の展望

インターネット広告業界はすでに底を打ち、2023年には成長軌道に戻ると予測されています。

人々の生活が元に戻り、消費が活発化することで、広告主の需要も回復し、中国のインターネット広告業界は再び成長を取り戻す可能性が高いでしょう。その成長率は、2022年の3%の2倍以上、7%前後になる見込みです。

2023年 成長率7%を可能にする注目すべき点

中国政府による、独占禁止法に抵触する可能性がある大手企業に対する取り締まりが完了し、企業運営への圧力が相当緩和されるのではないでしょうか。以下に先ほど述ました「2023年中国インターネット広告業界の成長率7%」を可能にする注目すべき点3つのことをお伝えします。

1.アント・グループの議決権変更により、アリペイは市場で正常に運営され、事業拡大と上場準備が可能になった

2023年1月、中国の電子決済最大手であるアリペイを運営するアント・グループの議決権に変更があったことが報道されました。変更の内容は、親会社であるアリババグループの創業者である馬雲(ジャック・マー)氏と、馬氏と一緒に行動する株主の議決権が、「経営陣、従業員代表、および馬雲氏を含む10人の個人」に移行し、それぞれが独立して権利を行使することができるようになったというものでした。この変更により、直接的、間接的、または単独、共同を問わず、アント・グループには(議決権の過半数を握る)支配株主が存在しなくなりました。言い換えると、馬氏はアント・グループの実質的なオーナーではなくなりました。このことにより、アリペイは市場で正常に運営され、事業拡大と上場準備が可能になりました。

2.中国ネットゲーム市場の認証緩和

中国では、課金を伴うネットゲームを正式リリースするには政府の認可が必要です。しかし、この数年間、申請しても一部のゲームしか認可されず、業界最大手のテンセントとネットイースも認可されない状態が続いていました。しかし、2022年末頃から、2~3年前に情報リリースされて認可待ちとなっていた、ゲーマーから大きな期待を集めていたテンセントとネットイースの主力商品たちが徐々にライセンス番号を取得し始めました。2023年には国内ゲーム市場の成長が再び訪れ、最終的に2023年の中国ゲーム市場は海外アナリストたちのネガティブな予測は大きく外れる可能性が高いと考えられています。

3.DIDIの復活

2023年1月16日、DIDIは、国家ネットワークセキュリティ審査に協力し、全面的な是正を行い、ネットワークセキュリティ審査室に報告し、承認を得たことを公式Weiboで投稿しました。この日から、DIDIアプリの新規ダウンロードが可能になりました。

DIDIとは?

DIDI(滴滴出行)は、中国のモビリティテクノロジー企業で、主にライドシェアや配車サービスを提供しています。2012年に設立され、中国国内で急速に成長し、現在では世界最大のライドシェア企業の一つとなっています。DIDIは、カープールやタクシーの配車、レンタカー、自転車シェアなど、幅広いモビリティサービスを提供しており、中国国内だけでなく、海外展開も行っています。また、最近では自動運転車の開発にも力を入れており、将来的には完全自動運転のタクシーサービスを提供することを目指しています。

2023年は55.9%の企業が「安定した発展、内部最適化」を計画に選択

2023年も、ショート動画やライブ配信の発展が一層拡大することになるでしょう。また、企業が自らライブ配信を行い、販売金額がライブ配信全体の販売金額の50%を超えることが予測されています。

多くの企業が、オンラインビジネスの拡大、オンラインとオフラインの融合の深化、マーチャンダイジング力の向上に注力する中、2023年の計画として55.9%の企業が「安定した発展、内部最適化」を選択し、現在の売上規模を維持しながら、施設や設備の改修・改善を行う企業が増えたことがわかります。縮小戦略を選択する企業は少なく、将来の発展に対する楽観的な見通しを反映しています。

2023年中国の各企業の展望

ショート動画、ライブ配信のシェアを争う三つ巴の戦い(アリババ、テンセント、Tiktok)

2017年から2020年にかけて、中国の2大テクノロジー企業である、電子商取引分野でNo.1のアリババと、ゲームやWeChatをはじめとするソーシャルメディアでNo.1のテンセントが、様々な新しい分野で競い合っていました。アリババは、テンセントが牽引するソーシャルメディア業界に何度も参入を試みましたが、いずれも失敗に終わりました。一方、テンセントの電子商取引への挑戦も、ほとんどが失敗に終わったと言われています。その後、テンセントは自社での電子商取引を諦め、京東と京東に関連する一連のスーパーマーケットに投資したことにより、中国の電子商取引市場で何とかアリババに肩を並べる存在となりました。

この中国の2大テクノロジー企業の競争が激化する中、突然、1つのスタートアップ企業が現れ、テンセントのソーシャルメディアの支配的地位に待ったをかけました。その名は抖音(TikTok)です。競争が激化する中、テンセントは抖音に対して、自社のコンテンツ(ゲームなど)の無断利用に関して法的措置を取り、その勢いを食い止めようと動いていました。その時、アリババは抖音をオフィシャルにサポートすることを表明しました。当時、抖音とアリババはソーシャル電子商取引分野で協力しており、一部業界関係者の間では、アリババが抖音を買収するのではないかという噂が広まりました。もし買収が現実となった場合、莫大な利益をアリババにもたらす可能性がありましたが、2023年現在、実現していません。抖音が会社として大きくなった今、恐らくもう実現は厳しいでしょう。

中国の独占禁止法に違反する大手企業に対する厳しい取り締まり

2020年から2021年にかけて、独占禁止法に違反した企業は少なくありませんでした。アリババや美団以外に、テンセントは3年以上にわたって調整を行っていたグループ会社である斗魚と虎牙の合併についても、独占禁止法に違反するとして国から即時中止を求められました。

同時期に、テンセントの最大ライバルであるアリババグループのアントフィナンシャルも上場直前にストップをかけられました。当時のアントフィナンシャルは、史上最大のIPOとも言われ、私自身も突然の中止のニュースには驚かされました。

皮肉なことに、ライバル関係であるテンセント創業者の馬化腾とアリババ創業者の馬雲は、同じタイミングで「経験しなくてよい出来事」を経験したことになります。

国の独占禁止法に関する取り締まりがますます強化されることは、大企業だけでなく中小企業にも大きな影響を及ぼすことを意味するでしょう。また、実際には多くの分野で、大手企業が独占禁止法に違反するような市場シェアを持っていることも珍しくありません。例えば、テンセントは既にゲーム業界を独占しているにも関わらず、現在、ゲームのライブ配信企業である斗魚と虎牙を合併し、さらにゲーム業界シェアを伸ばそうとしています。もし、この2つの企業が合併に成功した場合、テンセントはゲームライブ配信業界で70%以上のシェアを握ることになります。こういった露骨な行為は国家も許容しないでしょう。

【ライブコマース】タオバオと抖音との競争が激化

2022年、中国最大の買い物祭りであるW11に向けて、アリババはタオバオ内の『交个朋友直播间』の公式サイトで、抖音のインフルエンサーとして有名だったロウ・ヨンハオが初めてタオバオのライブコマースルームに登場し、ライブコマースを実施しました。また、ロウ・ヨンハオだけでなく、中国最大の英語塾である新東方の創業者・俞敏洪も10月末にタオバオのライブコマースルームに登場しました。

さらに、タオバオはこれらの人物だけでなく、他の有名なライブインフルエンサーも引き抜くことに成功しました。これは、タオバオが抖音に真っ向から闘いを挑むことを意味します。

2022年WeChatの「视频号」は抖音に対する挑戦に失敗、2023年も抖音が優位?

2022年、WeChatが最も力を入れた機能はショート動画の「视频号」でした。これはもちろん、抖音を意識した戦略でしたが、結果として大苦戦することになりました。抖音はUIの優位性に加え、コンテンツ表示に偶発性と面白さを重視したアルゴリズムを採用しており、「おもしろい」「ドラマ性がある」コンテンツが優先的に露出されるようになっています。その結果、人の「興味」や「好奇心」を刺激することに成功しています。WeChatの「视频号」と比較すると、抖音の魅力は圧倒的と言わざるを得ません。

また、「视频号」は、知り合いなどにシェアをすることができ、いいねやお気に入りをした動画が知り合いに分かるようになっているという特性を持っています。これはメリットでもあり、デメリットでもあるが、現時点ではデメリットの方が大きく出ています。どうしても、ふざけた動画や面白おかしい動画にいいねやお気に入りをしていると知り合いに知られたくない、という防御本能が働いてしまう傾向にあるためです。

一方、抖音はこういった自分が押したいいねやお気に入りを知り合いにバレる心配がなく、気軽にアクションを起こすことができます。

2023年はライブコマース分野がさらに拡大しメインプラットフォームに抖音

上記の結果から、「视频号」は、ニュースや経済など、やや堅い内容の動画を視聴する際に使用される傾向があります。一方、リラックスしながら好きな動画を視聴したい場合は、抖音を使用する傾向があります。

2023年には、ライブを利用した電子商取引市場の規模が4,900億元を超えると予測されています。2020年時点でのライブによる電子商取引のユーザー利用率は10.6%でしたが、2023年には24.3%に達すると予測されています。

この数字からも、ライブコマース分野が急速に拡大していることが分かります。抖音はライブによる電子商取引のメインプラットフォームとなっており、今後も中国全体のライブによる電子商取引のGMV(総流通取引額)をさらに伸ばしていくことが予想されています。これは、同時にアリババとテンセントのシェアを直接奪うことを意味しています。2023年には、これまで以上に激しい競争が繰り広げられるでしょう。

まとめ

2023年はある意味でスタートの年となるでしょう。今までのゼロコロナ政策を完全に忘れ、3年前の頃のような経済重視の中国が復活すると予想されます。明確に何かが交わされたわけではありませんが、中国政府と国民の間で既に合意に至っていると考えられます。

中国では変化が速いと言われていますが、特にインターネット業界はここ最近、特に速いと言われています。そういった激しい変動期にあって、中国で物を販売する上でのマーケティング戦略を組む上で、今回の話題のような最新動向を把握する必要があります。工欲善其事、必先利其器。(工、その事をよくせんと欲せば、必ずその器を利とす。)この一文が多少なりともこの文章を読んでいただいた皆様の助けになることを心から祈っています。

併せて読みたい記事

この記事を書いた人

瞿史偉(Qu-Shiwei)

瞿史偉(Qu Shiwei)

上海市出身。東京大学在学中にIT関連の会社を起業後、ENJOYJAPANを立ち上げ。中国人観光客向けのWEBメディアとフリーペーパー、旅行者向けの携帯端末レンタル事業立ち上げなどを行う。 現在は主に上海に拠点をおき、中国企業や在中日本企業の担当の他、日本企業の中国進出のサポートを行う。

このライターの記事を読む