コロナ禍からの回復の機運も相まってインバウンドや越境ECへの関心が非常に高まっている状況です。越境ECや訪日インバウンドに関するメディアの記事も大幅に増えていることからもより実感させられます。

ただ、メディアの記事が増えるに従って、我々のように長年中国市場向けのマーケティングに携わっている者からすると、残念に思えてしまう記事も多く見かけるようになりました。
誤った記事が出るのは仕方のないことだとは思いますが、日本語のメディア情報をもとに間違った方向にマーケティング戦略や投資を決めてしまっている事例を非常に多く見かけるため、注意喚起の意味も含めてコラムを書きました。
今回のコラムはいつもとは少しテイストの違う記事となりますが、日経新聞9月19日掲載の記事を題材にして、どのようなところを残念に感じているのかなどを紹介したいと思います。

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微博(weibo)で中国市場の分析?

中国、化粧品も「自国愛」 SNS投稿数、4年で7倍:日本経済新聞

以下一部抜粋
日本、中国、米国、フランス、韓国の主要化粧品ブランドを3つずつ選び、中国版ツイッターの微博(ウェイボ)の投稿を分析した。中国の大規模ネット通販セール「6.18商戦」の約1カ月間を対象期間とし、「618」「買った」「ブランド名」の全ての言葉を含む投稿を直近5年分取得。国別に推移をみた。

2018~20年は「エスティローダー」や「ランコム」など米仏ブランドが投稿数のトップ争いをしていた。21年に、それまで3~4位だった中国勢が2位に浮上。中国は22年も2位だが首位に肉薄し、話題力で欧米に並ぶ。中国ブランドの投稿数は4年で7倍の159になった。

引用:※日経新聞9月19日号朝刊掲載抜粋

中国の化粧品市場を分析するにあたり、明確に指摘をしたい点については、次の文章です。

『日本、中国、米国、フランス、韓国の主要化粧品ブランドを3つずつ選び、中国版ツイッターの微博(ウェイボ)の投稿を分析した。』

中国の化粧品市場を分析するにあたり、ウェイボで投稿を分析しました。と記載があります。中国の化粧品市場の分析をウェイボで分析をするのは、日本の化粧品市場の分析をTwitterで行っているのと同じです。Twitterだけを見て日本の化粧品市場が分析できるものでしょうか?きっと違いますよね。

改めてウェイボで分析するのがダメなのか。ということを中国のリサーチ会社の最新調査データをもとに解説します。※参考文献は文末に記載

企業が実際に投資をしている中国ソーシャルメディアプラットフォーム

以降、掲載するグラフは、中国リサーチ会社:聚美麗『2021中国化粧品業界ソーシャルメディアマーケティング調査報告から抜粋しました。

  • 中国化粧品会社200社
  • 調査期間2021年1月~6月

に対して、広告投下をしたSNSプラットフォームをリサーチした内容になっています。

最も広告費を投下した中国SNSプラットフォーム

2021年で最も広告費を投下したSNSプラットフォームは、抖音/ドウイン(中国版TikTok)で43.55%となっております。また、第2位は、小紅書(RED)で29.41%となっています。では、ウェイボはどうでしょうか。3.14%です。つまり、中国化粧品企業200社のうち、約6社だけが最も広告費を投下したという回答にとどまっています。

そう解説すると、「いやいやウェイボは昔からあるプラットフォームで、抖音/ドウインが、急成長中なのでたまたま今年最も広告費を投下したSNSプラットフォームとして選ばれただけで、ウェイボには今も多くの企業が広告費を投下しているよ。」という意見も聞こえてきそうです。
そこで、複数回答をOKとした質問で、広告費(インフルエンサー施策)を投下したSNSプラットフォームを教えてください。という調査項目がありますのでその調査結果を見てみましょう。

【2021年】インフルエンサー施策を行ったSNSプラットフォーム

この調査項目で、最も多かったSNSプラットフォームは、小紅書(RED)で84.31%でした。80%以上の企業が、小紅書(RED)でのインフルエンサーを起用した広告投稿を行っています。次いで、73%で抖音/ドウイン(中国版TikTok)となり、ウェイボは49.8%となっています。


つまり、半分の企業はウェイボでの広告施策は行っていないことになります。これでは中国の化粧品市場のリアルな戦場の構造は見えてこないでしょう。現に弊社でお手伝いをさせていただいている日本の化粧品企業も、ウェイボでの広告投稿やインフルエンサー施策は、タレントを起用する時以外ではまったくと言っていいほど行っておりません。
これだけ見ても、ウェイボの口コミ投稿分析の結果だけで中国の化粧品市場を分析できている、とは言い難いことがわかりますね。

それでも、『いやいや、この調査は中国企業200社だけを分析しているから偏りがあって、欧米ブランドやその他大手有名ブランドは違うのでは?』という声がありそうです。

では次に、例にあげた日経新聞の9月19日の記事の中で、中国化粧品市場を牽引すると記載されている欧米ブランド(エスティローダーとランコム)については、どのような広告戦略を行っているかを調査したデータをご覧ください。

※エスティローダー、ロレアルの2社の2021年7月から2022年6月までのコンテンツ投下量から分析をしています。
※本コラムに掲載しているデータは、中国ENDATA INC.が2022年8月に公表したデータをもとに作成しております。

エスティローダーのSNSプラットフォーム別コンテンツ投下量比率

エスティローダーの中国SNS投下数量

先ほどの調査データと比較すると抖音/ドウイン(中国版TikTok)よりもウェイボに多くコンテンツが投下されていることがわかります。

しかし、圧倒的に小紅書が占めており、ウェイボが占める割合は全体の12.1%にとどまっています。

ランコムのSNSプラットフォーム別コンテンツ投下量比率

ランコムの中国SNS投下数量

ランコムも先程のエスティローダーと同様に最も投資をしているSNSプラットフォームは、小紅書(RED)です。こちらも割合は圧倒的で全体の80%以上となっています。


以上、中国の外資系TOP2ブランドは共通して8割をREDで、残りをウェイボと抖音に力を入れているということが分かりました。

中国化粧品市場のマーケティング活動で最も利用されているプラットフォームとしては、小紅書(RED)が圧倒的に強いということがわかります。

まとめ

今回は、日本メディアの情報を鵜呑みにすると、マーケティング戦略を読み誤ってしまうのではないか、という心配からこのようなコラムを書かせていただきました。TOPブランドが全体の10%程度しか投資をしていない市場で分析をしたところで、果たして本当の事情が見える情報といえるでしょうか?

日経新聞などの日本語メディアだけでなく、ぜひ積極的に中国語の一時情報も取りに行きマーケティング戦略を立ててください。

みなさんが本当の中国市場を正確に把握し、最新の事情をもとにしたマーケティング戦略作りを行っていただくために、我々ENJOYJAPANが皆様のサポートをさせていただきます。

参考資料
  • 聚美麗(中国リサーチ会社)『2021上半期中国化粧品業界ソーシャルメディアマーケティング調査報告書
  • 中国ENDATA INC 2021.7~2022.6最新KOL分析報告書(2022年8月公表)

この記事を書いた人

中山 隆央(Nakayama-Takao)

中山 隆央(Nakayama Takao)

2008年、株式会社東急エージェンシー入社。国内企業・外資企業を担当し、2016年より30歳(当時最年少)にて部長職として、営業部門を統括。2017年より、ENJOY JAPANに参画し、日本企業の中国市場展開(マーケティング・越境EC)、中国企業(エンターテインメント系)の日本進出を担当。

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