今回は、SHEIN(シーイン/シェイン)が世界的に台頭してきた理由とこれまでSHEINが行ってきたマーケティング戦略を解説します。
少し長い文章ですが、なぜ設立間もないブランドが店舗があるわけでもなく越境ECでこれほど世界中の若者に人気となっているのか?どのように展開をしていったのか?海外向けに展開する日本企業の皆様に参考になるところも多いと思いますので、ぜひ最後までご覧ください。
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SHEIN(シーイン)とは?
SHEINは、2008年に中国で設立された、南京希音電子商務有限公司という企業が運営するファストファッションブランドです。
元々はWEBマーケティング事業をおこなっていましたが、2012年にSheinsideというブランドを立ち上げ、ECサイトで販売をスタートしました。そして、2014年にブランド名を改め『SHEIN』となりました。
当初から越境ECで世界をターゲットに展開していました。元々がウェブマーケティング会社ということもあり、SEOやリスティング広告、SNS広告などを積極的におこない、規模を拡大していきます。
また、ZARAなどのファストファッションブランドとの大きな違いとして、SHEINは実店舗を構えておらず、すべてオンラインで販売しています。
世界中から注目を集めて急成長
SHEINは、世界中の特にまだ10代の若者から注目を集めていて、下記のデータをみればその人気さがわかります。
- App Annieの統計データによると、2021年5月17日、「IOSプラットフォームにおけるSHEINのアプリのダウンロード数」でアマゾンを抜き1位のECアプリとなる。
- GoogleとKanterが共同発表した「2021年 ブランドZ™ 中国グローバルブランドトップ50(2021 BrandZ™ Top 50 Chinese Global Brand Builders)」によると、SHEINはテンセントグループを超え11位にランクイン。
- 世界54カ国のiOSプラットフォームでのダウンロード数がトップになり、Androidプラットフォームでも13カ国で最もダウンロードされたECアプリとなる。
- 2023年5月Wall Street Journalによると20億米ドル(約2,800億円)の資金調達を行った。しかし、評価額(時価総額)は1年前の1,000億米ドルから大きく下がる660憶ドル(約9兆1,300億円)となった。**
- 2023年、企業がSHEINのオンラインストア上に出品できる「SHEIN Marketplace」の展開を発表。
日本でも10代の若者を中心に注目を集めています。しかし、SHEINは業績PRや派手なリリースをほとんど行わず、日本はまだしも中国国内でも30代以上の世代にはほとんど存在を知られていないブランドだったりもします。
SHEINの特徴
SHEINの販売戦略の特徴を3つご紹介します。
超低価格で商品を販売
SHEINの商品は「超低価格」で販売されています。SHEINの公式ホームページを見ると一目瞭然、Tシャツが1着わずか445円、デニムもわずか1500円以下、ネックレスは80円から購入できます。
他の商品もビックリするような激安価格で販売されています。そしてこの激安価格から10%~20%の割引が適用されます。
商品サイクルの圧倒的スピード感
SHEINの公式ホームページのデータによると、2021年5月31日にサイト内にアップされた新商品数は25,077点に達したそうです。
比較例として、ファストファッションの先駆けともいえるブランド「ZARA」は毎週2回、新商品が届く商品サイクルとなっており、年間新作総数は約25,000点となっています。「ZARA」は、通常のファッションブランドに比べて新商品の入れ替わりは圧倒的に早いブランドと知られています。
つまり、SHEINが「一日」に投入する新商品の数がZARAの「年間」の新商品総数に並び、一週間に投入する新商品数は10万点を超えることになります。SHEINの新作数量、生産サイクルのスピードはZARAを圧倒的に上回っており、「ファストファッション」を超える「スーパーファストファッション」という概念を作り上げました。
豊富な商品ラインナップ
商品のラインナップが圧倒的に豊富です。例えば、青いトップスがほしい場合、SHEINのウェブサイトで「青 トップス」というキーワードで検索すると、4,000点も超える商品が出てきます。「青のトップス」といっても、色のニュアンスやデザインによって微妙に違います。色とデザインの組み合わせを工夫することで、何千点以上も異なる服を作成することができます。
結果、SHEINは「年間数万点SKU」という目標を達成することができました。
SHEINは異なる国、地域、人種、好み、体型の消費者が抱えているニーズを満たすために、現地のユーザーに好まれそうなデザインの服を制作します。
ちなみに、SHEINのウェブサイトも「多様性のあるデザイン」と「豊富なカラーバリエーション」で構成されています。
競合を圧倒する強さの秘密
非常に激しい競争がおこなわれているファストファッション業界でなぜSHEINは、競合を圧倒する環境を作ることができたのか?サプライチェーンとコストマネジメントの面から解説します。
サプライチェーンマネジメント
SHEINの「より豊富なラインナップ、より低価格で、より商品サイクルを短く」という理念が実現できるのは、それを支える強いサプライチェーンが構築できたおかげです。コストを節約するため、今までのファッションブランドやファストファッションブランドの多くは、サプライチェーンが以下のようになっているのが通常です。
- 本部(先進国が拠点):商品の企画・製造
- 貿易部門:原材料の仕入れ
- 海外工場:商品製造
ところが、SHEINはこのような通常のやり方を選ばず、下記のようなサプライチェーンを構築しました。
<SHEINのファッションブランドのサプライチェーン>
商品の企画・製造から流通・販売まで、中国国内にサプライチェーンを構築
この仕組みによって、多少コストが高くなってもサプライチェーンのスピードは圧倒的となりました。商品のデザインから、プロトタイプ開発、生産に至るまで所要日数はわずか14日間、最速で7日間に短縮することができます。わずか7日間で製造から販売、ユーザーの手元に届くシステムを構築しました。
一方、競合の参考として、ZARAの場合は製造からユーザーの手元に届くまでに、3~4週間かかると言われています。
垂直統合した生産体制とサプライチェーンがSHEINの強みになっています。このサプライチェーンシステムによって、高頻度で短サイクルな商品供給が実現され在庫回転率も向上し、各段階のコストを抑えることに成功しています。
コストマネジメント
顧客はどのようなデザインの服を好むのか、AIを使用し独自の手法で分析をしています。
まず、各通販サイトから商品情報を取得し、服の色やデザイン、模様などを解析します。
次に、「Google Trends Finder」を活用して、ユーザーによく検索されるアパレル関連の用語を分析し、今後流行になりそうな色、生地、デザインをAIを使って予測します。
AIに加えて、SHEINには現在約800人のデザイナーとバイヤーで構成されたチームが存在し、リアルタイムなファッショントレンドを把握するため下記のようなところから情報を集めいています。
- 1688(アリババのBtoBサイト)
- 高級ブランドの新作コレクション発表会
- ファッション誌
- ファッションショー
などから情報を集めています。
つまり、SHEINはデザインの段階において、人手とAIを使い分析を行っています。その結果、コストを抑えて流行や消費動向データから消費者に好まれそうな商品のデザインを制作します。
2017年、SHEINの年間売上高は百億元(約1700億円)近くまでに上り、規模の経済で利益を上げることができるようになりました。SHEINの公式ウェブサイトに掲載されたデータによると、
SHEINは平均日販点数が80万点に達し、年間総販売点数は約3億点だそうです。
近年は中国から東南アジア諸国に生産拠点を移転する企業が増加しています。そういった市場で規模を拡大してきたSHEINは工場との交渉でより主導権を握れるポジションまで上り詰めていました。
SHEINが2021年に発表した「サプライヤー募集要項」によると、「納期が7日~11日以内」、「100着~500着から受注可能」といった要件が規定されています。
SHEINの商品戦略
SHEINは売れ筋商品を見つけるために常にA/Bテストを実施しています。まず、異なるスタイル、色、生地を組み合わせた試作品を小ロットで生産しテスト販売を行います。評価が高かった商品を大量に生産し広告を運用しながら人気商品を制作します。
オンラインテスト販売
すべてオンラインで販売行うSHEINは、オンライン通販のデータからリアルタイムで消費者のニーズを把握できます。データ収集から分析、結論まで時間的な優位性があると言えます。
一方、競合のZARAでは日々世界中にある7,000軒以上の店舗から販売データと顧客のニーズなどの情報がスペインの本社に届くようです。取得した情報によって人気商品の追加生産を行います。各店舗にて情報収集⇒データ集約⇒データ分析⇒本社が結論を出すという4ステップの流れと言われています。
異なるテストマーケティング手順
SHEINは顧客のニーズを正しく把握するため、すべての新しいアイテムを多人種、多民族が集まるアメリカで優先的にテスト販売を行います。その後、消費者の新商品に対する評価によって、ヨーロッパ、オーストラリア、中東などの市場でプロモーション戦略を策定します。
通常、伝統的なファストファッションブランドは、ブランド発祥地や本社の所在地でテスト販売を行うのが一般的です。例えば、ZARAの場合は、優先的にスペイン市場に新商品を投入し、テスト販売を行います。しかし、このやり方はサンプル母集団の多様性が限られているので、すべての消費者のニーズを正確に把握できません。欧米のファッションブランドのサイズとデザインがアジア人の体系に合わないとよく言われるのはこのためです。
イギリスのデイリー・メイルによると、イギリスで販売されているSHEINのある千鳥格子柄のセットアップは一日の販売数が30,000点に達し人気アイテムとなりました。この商品も最初にアメリカでテスト販売を実施し、イギリス人のニーズを配慮した上でデザインを調整しイギリス市場に投入した商品です。
小ロット生産
SHEINと提携している工場は100着から受注が可能なことが条件となっています。
対してZARAの工場は少なくとも500着からの受注となっており一般的には1,500着~3,000着から受注していることが多いようです。小ロット生産はコストが高騰するリスクがあり、小ロット生産の注文に応じない工場が多いのが一般的です。しかし、SHEINは工場とウィンウィンの関係を構築するために積極的に補助金を支給しており支払いも迅速に行っています。また、売れ筋アイテムがあれば追加生産の注文が多く入るので多くの縫製工場から高い評価を得ているようです。
@晚点LatePost によると、ZARAとSHEINの両社が、同様に3,000着の服を生産し、テストマーケティングを行うとすると、ZARAの場合は1~6品目しかテストできませんが、SHEINの場合は30品目がテストできます。これは、商品開発の段階において、SHEINのほうが消費者に好まれるデザインを見出す確率が高いことを意味しています。SHEIN社内の事業計画書によると、全商品の約50%の商品が人気アイテムであり、売れ行きの悪い商品は全商品の10%に過ぎないとのことです。
SHEINのプロモーション戦略
SHEINが中国のファッションブランドとして、海外で爆発的に人気を集めることになったプロモーション手法について解説します。
インフルエンサーマーケティングを海外で再現
インフルエンサーマーケティングは、中国でブランドの知名度や商品の知名度を高めるためよく行われている方法ですが、海外でも同様の方法を行いました。
KOC(Key Opinion Consumer)の大量起用
2011年から、すでにインフルエンサーマーケティングの手法を使ってSNSで集客や商品宣伝を行いました。KOL(Key Opinion Leader)ではなく、フォロワー数は比較的に少ないものの影響力があり親近感があるKOCを大量に起用しました。KOCは、YouTube、Instagram、Snapchat、TikTok、Facebookといった主要SNSプラットフォームで自ら商品購入の体験レビューやコーディネートなどのコンテンツを投稿することで消費者の目を引き付けます。
SHEINの採用情報を見ると、インフルエンサーマーケティングを実施する際の注意点やコツを見ることができます。
- SHEINは自社のプロモーション活動に協力してもらうため、積極的に各SNSプラットフォームのインフルエンサーと連絡を取り、インフルエンサーを育成にも力を入れています。
- 「サンプル品を配る」、「インフルエンサーマーケティング」、「広告運用」等の手法で消費者にアプローチします。口コミの力をうまく活用して、人気商品を作っています。
- すでに提携しているインフルエンサーと良好な関係を保ち、質問に迅速に答えます。
報道によると、インスタグラムのフォロワーが36,000人を超えている大学生に聞くと「SHEINで購入したものを個人アカウントに投稿すれば、毎月、SHEINから6商品が無料でもらえる」と話したそうです。
※KOCについて詳しく解説した記事は以下のリンクをご覧下さい。
中国のKOLとKOCの違いとそれぞれの違いとそれぞれの活用方法
アフィリエイトマーケティング
SHEINの公式ホームページを見ると簡単にアフィリエイトプログラムのページを見つけることができます。商品紹介のコンテンツを投稿して宣伝することでコミッションをもらえる仕組みです。アフィリエイターたちが自発的に商品を購入することを促しながら一部お金を稼ぎたいユーザーやインフルエンサーをアフィリエイターによって外部からの安定したアクセスを確保し販売チャネルの拡大につながります。
ライブコマース
中国で一般的となっているライブコマースをSHEINは海外でも積極的に駆使しています。SHEINは2017年からライブコマースのテストを実施しました。当初はあまり良い結果がでませんでしたが、新型コロナウイルスの大流行で「引きこもり消費」の需要が生まれてライブコマースが注目されるようになり結果大量のトラフィックをもたらしました。
2020年、SHEINはライブコマースを何度も実施し、多くのインフルエンサーを起用しました。その中で、2021年5月にSHEINのアプリを通じて世界中で放送されるバーチャル・ミュージックフェスティバル「SHEIN Together Fest」を開催し、「Lil Nas X」と「Kate Perry」など有名な歌手を起用しました。そのライブは世界中で180万人を超える視聴者を獲得し、多くの人はライブを視聴するためSHEINのアプリをダウンロードし、1日にして大量のユーザーを獲得することに成功しました。
インスタグラムやYoutube、または公式ウェブサイトで様々なテーマのライブコマースを実施することによって、消費者との距離感を縮めユーザーの注意を惹きつけてSNSから自社ウェブサイトにトラフィックを誘導することに成功しています。
【外部リンク】【5分でわかる】衝撃のリピート率65%!中国ライブコマースの今を解説!
ローカライゼーション戦略
中国のブランドであろうと、海外ブランドであろうと、海外進出する際、様々な課題に直面しますが、SHEINのブランドのローカライズ(現地化)はスムーズに成功させます。
自社ウェブサイト構築
企業が海外に進出する際、母国市場での経営戦略や商慣行を当てはめてしまうことは海外事業展開を阻む一番の壁となります。
例えば、ZARAやH&Mは中国に参入した当初、自社が精通しているビジネスモデルを採用し自社ウェブサイトの開設を優先的に行い中国最大ECサイト天猫への出店の招待を拒否しました。しかし、ご存知の通り中国のユーザーはECプラットフォームで商品を購入することが多く思った通りの成果を得ることができませんでした。
SEO/SEM(検索エンジン最適化/サーチエンジンマーケティング)
SHEINの創業者である許仰天氏(Xu YangTian)は会社を創立する前まで、南京のある貿易会社でSEO業務を担当していました。Similarwebのデータによると、広告経由でSHEINのウェブサイトに流入したユーザーは全体の48.61%を占めており、Googleでリスティング広告やバナー広告などを大量に出稿しているようです。
ソーシャルメディア
SNSはSHEINがブランド知名度を上げるために積極的に活用しています。ここでは4つの使い方を解説します。
- 複数のアカウントを開設、フォロワー数が多いメインアカウントとフォロワー数が少ないサブアカウントはお互いに紹介しあい、トラフィックを誘導します。
- SHEINのInstagramでの公式アカウント@Sheinofficialには合計2,100万人以上のフォロワーがいます。また、投稿するコンテンツが異なるアカウントは20個以上を持っており、メインアカウントから訪問者を誘導し、それぞれのアカウントのフォロワーを増やしています。
- アメリカ、日本、カナダ、スペイン向けに配信するサブアカウントが開設されており、投稿するファッションスタイルも現地のユーザーが持つニーズよって変えています。
- 例えば、SHEINが開設したアメリカ向け配信するアカウント「@shein_us」の投稿を見るとわかるように、肌の露出度が高い服装が多く、モデルさんのポーズも大胆です。一方、日本向けに配信するアカウント「@shein_japan」は多くのアジア系のモデルを起用し、投稿した服装のスタイルも可愛い系が多くなっています。
- ジャンル別にアカウントを設立し、よりこのジャンルに関心を持つ消費者に効果的に発信します。
- 例:「@sheincurve」というアカウントでは、大きいサイズのレディース服の情報をメインに配信しています。「@sheglam_official」のほうはコスメ製品の情報をメインに配信しています。
- より良質なUGCを増やすため、SNSのハッシュタグ機能をうまく活用しています。
- インスタグラムでは、#sheinハッシュタグをつけた投稿件数は約292万件があり、ほとんどがSHEINの服を身につけて撮影された写真です。
2023年『SHEIN Marketplace』の立ち上げを発表
2023年5月4日、マーケットプレイス・プラットフォーム「SHEIN Marketplace」を立ち上げたと発表しました。ブラジルではすでにテスト運用を始めており、今後は米国での展開を行い世界へグローバル展開を進める予定とのことです。米アマゾンのように国内外の加盟事業者のショップを展開して幅広い販売戦略を展開していく予定です。
そして、「SHEIN Marketplace」に加盟する事業者は、SHEINのリアルタイム分析システムにアクセスすることができ、SHEINの得意としているオンデマンド生産や需要の予測技術を学ぶことができるようになるとのことです。さらに、SHEINが今までに蓄積してきた世界的に広がった顧客基盤、シームレスに商品を配送できるプロセスやグローバルなブランド・マーケティング、ソーシャルメディア(SNS)への露出を利用して、より多くの利益を得られるようになるとのこと。
まとめ
いかがでしたでしょうか?SHEINが行ってきたマーケティング戦略や手法を振り返ってみると、日本企業にも真似できる点は多くあると思います。ENJOYJAPANでは、知識豊富な担当者が多数在籍しております。中国に関するマーケティングでお困りのご担当者様はお気軽にご相談ください。
YouTube動画でも解説
5分程度ですので、通勤の行きかえりなどでもお楽しみ頂けます。
併せてぜひご確認ください!
参考リンク:“拼多多式”卖衣服火爆海外,SHEIN的「国产打法」这么香?
この記事を書いた人
2021年新卒入社。天津市出身。学生時代からソーシャルバイヤーとしても活動しており、自身で商品選定から、微博や小紅書などのSNSで顧客を募集してきた経験を持つため、中国消費者のニーズやトレンド、行動などを把握している。