大手製薬メーカー(一般用医薬品・ヘルスケア商品)
「店頭で選ばれる」から「訪日前に選ばれる」へ。メディア×インフルエンサー×広告の統合設計で、5市場の“旅マエ”に介入したインバウンドマーケティング
- 対象国
- 全世界各地
- 業界・商品
- 製薬・ヘルスケア
「日本製だから、きっと質がいい」「一度は日本に行ってみたい」——私たちが日本や日本製品に対して抱くこうした感覚は、実際にはどれくらい「買いたい」「行きたい」という気持ちにまでつながっているのでしょうか。そして、その感じ方は国や世代によってどれくらい違うのでしょうか。
この疑問を解消するために、私たちは少し変わったアプローチを取りました。生成AIを使って、6つの国・地域、6つの世代、男女それぞれの“仮想の消費者”を合計36,000人つくり出し、全員に検証①:同じ鞄広告を見せて品質評価・購買意向を尋ねると同時に、検証②:日本を訪れたいか、いつ・何をしに行きたいかも尋ねました。本記事では、この2つのテーマを順番に見ていきます。(本調査は実在の消費者へのアンケートではなく、生成AIを用いた仮説検証のためのシミュレーションです。実際の調査結果とは異なる場合がございます。)
目次
ポイント
この記事のまとめ
① 「日本製」表示は品質の印象を確かに上げる。でも「買いたい」への効果は控えめ。
② 効果が最も大きいのは中国、最も小さいのは米国。世代・性別の差はほぼなし。
③ 回答者のほぼ半数が訪日意向あり。台湾がもっとも高く、欧州がもっとも低い。
④ 人気の時期は春の桜と秋の紅葉。体験したいイベントの“主役”は国によって違う。
従来のアンケート調査は、数百人の協力者に回答してもらうのが一般的で、費用も時間もかかります。今回はその前段階の“仮説づくり”として、AIによる大規模シミュレーションを行いました。
用意したのは、下の2種類の鞄広告です。デザイン・商品説明はまったく同じ。違いは、右側の広告に「Made in Japan(以下、MIJと省略する表記箇所あり)」バッジが付いているかどうかだけ。左を見た人(統制群)と右を見た人(実験群)で、品質の評価と購買意向がどう変わるかを比べました。
▼ 実際に見てもらった2つの刺激物(広告)


図1:唯一の違いは「Made in Japan」バッジの有無。この1点だけで評価がどう動くかを検証した。
ポイント
調査内容
対象:AIによる仮想消費者 36,000人(中国・韓国・台湾・米国・欧州・東南アジア 各6,000人)
手法:二元配置分散分析
設計:6国・地域 × 6世代(10代〜60代以上)× 男女を均等に配置
指標:品質評価・購買意向(1~7の7段階評価)/実務上「広告効果がある」と判断できる目安として、+0.25点を基準とする
まず全体の結果です。「Made in Japan」表示があると、品質の印象は平均で0.215ポイント上がりました。統計的にはっきりと確認できる差です。ただし、私たちが事前に「これくらいないと実務的には意味が薄い」と決めた+0.25ポイントの基準には、わずかに届きませんでした。
さらに「実際に買いたいか」という購買意向になると、上昇は0.112ポイントまで小さくなります。つまり——“日本製”は「良さそう」という印象づくりには一定の効果を示しますが、その印象がそのまま「買う」に直結するわけではない、ということが示唆されます。
| 指標 | MIJなし | MIJあり | 差 | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 品質評価 | 4.147 | 4.363 | +0.215 | 有意/基準に僅差で未達 |
| 購買意向 | 3.070 | 3.182 | +0.112 | 有意/効果は限定的 |
では日本製アピールは意味がないのかというと、そうではありません。品質という“土台の印象”を底上げする力は確かにあります。ただ、それだけで実際の購入には直結するほどの大きな影響は与えられない、ということです。価格・デザイン・使い道・具体的な品質の根拠など、他の材料と組み合わせて初めて「買う」に届く、と考えられるでしょう。
同じ「日本製」でも、その受け止め方は市場によって違いがみられました。品質評価における日本製であることの効果がもっとも大きかったのは中国(+0.271)で、唯一+0.25点の基準を超えました。一方で、その影響がもっとも小さかったのは米国(+0.171)。この中国と米国の差だけが、統計的にもはっきり確認できる市場差でした。
| 国・地域 | 品質への効果 | 購買への効果 |
|---|---|---|
| 中国 | +0.271 (基準超え) | +0.144 |
| 欧州 | +0.247 (僅差で未達) | +0.065 |
| 韓国 | +0.204 | +0.141 |
| 台湾 | +0.202 | +0.136 |
| 東南アジア | +0.198 | +0.066 |
| 米国 | +0.171 | +0.118 |
ここから見えるのは、市場ごとに「日本製」の使い方を変える余地があるということです。たとえば、以下のような例が挙げられます。
今回の分析では、意外にも世代や性別による違いがほとんど見られませんでした。10代でも60代以上でも、男性でも女性でも、「日本製」で品質印象が上がるという反応はほぼ同じ強さでした。
これはマーケティング的には好都合な結果です。「日本製」という表示は世代や性別ごとに作り分けなくても、共通のメッセージとして使えるということだからです。年齢や性別による最適化は、“日本製アピールの強さ”ではなく、商品デザインや使う媒体、訴求クリエイティブの側で行うのが効率的であると言えます。
ポイント
留意点
10代のうち「訪日経験がある層」だけは、日本製表示に対して購買反応がやや強く出ました。ただしこれはあくまで試行的な発見です。本当に施策に使う前に、別のサンプルや実在の人による調査での再確認が必要です。
鞄広告への反応を調べたのと同じ36,000人に、私たちはもうひとつの質問を投げかけました。「日本を訪れたいか」「いつ行きたいか」「季節やイベントは訪日の決め手になるか」「どんな季節イベントを体験したいか」——日本製品ではなく、日本そのものへの関心を聞く調査です。
こちらも鞄広告の実験と同じ36,000人のパネルを使い、同じ6つの国・地域、6つの世代、男女均等の構成で実施しました。訪日したいと答えた人には続けて希望の時期を尋ね、全員には季節・イベントが訪日時期に与える影響と、体験したいイベントも聞いています。
ポイント
調査内容
対象:AIによる仮想消費者 36,000人(鞄広告と同一のパネル)
手法:訪日意向・希望時期はカイ二乗検定(効果量:Cramer’s V)
季節・イベント影響度は分散分析(効果量:η²)
イベント選好は一元配置分散分析/Welch検定(Holm補正)
設問:①訪日したいか/②(訪日希望者に)いつ行きたいか
③季節・イベントは訪日時期に影響するか/④体験したい季節イベントは何か
指標:訪日意向・希望時期は構成比(%)/季節・イベントの影響度は4件法
体験したいイベントは7段階評価
「今後、日本を訪れたい」と答えた人は全体の49.6%で、ほぼ二人に一人という結果でした。もっとも高かったのは台湾(52.5%)、もっとも低かったのは欧州(47.0%)。国・地域による差は統計的には確認できるものの、その差はごくわずかで、訪日への関心はどの市場にも幅広く存在していると言えそうです。
| 国・地域 | 訪日意向率 |
|---|---|
| 中国 | 49.7% |
| 韓国 | 50.7% |
| 台湾 | 52.5% ★もっとも高い |
| 米国 | 49.5% |
| 欧州 | 47.0% ★もっとも低い |
| 東南アジア | 48.4% |
世代や性別による差もほとんどありませんでした(世代:48.8〜50.1%、性別:男性49.4%/女性49.8%)。一方で、訪日経験の有無によるちがいははっきりしています。過去に日本を訪れたことがある人の訪日意向は54.1%、未経験の人は47.0%。一度日本を訪れた人ほど「また行きたい」につながりやすい、という結果です。
訪日を希望する人に、いつ行きたいかを尋ねると、もっとも人気だったのは3〜4月「春・桜」(14.7%)。僅差で9〜10月「秋・紅葉」(13.4%)、5月「GW期」(13.0%)が続きました。
| 順位 | 希望する時期 | 割合 |
|---|---|---|
| 1位 | 3〜4月(春・桜) | 14.7% |
| 2位 | 9〜10月(秋・紅葉) | 13.4% |
| 3位 | 5月(GW期) | 13.0% |
| 4位 | 8月(真夏・夏祭り) | 10.6% |
| 5位 | 1〜2月(真冬) | 10.0% |
特定の時期に極端に集中するのではなく、春・秋・初夏へと需要が分散しているのが特徴です。裏を返せば、オフシーズンにも訴求の余地があるということでもあります。ただし国別に見ると、もっとも人気の時期が異なる市場もあります。
| 国・地域 | 最多希望時期 | 構成比 |
|---|---|---|
| 中国 | 3〜4月(春・桜) | 16.1% |
| 韓国 | 3〜4月(春・桜) | 14.5% |
| 台湾 | 9〜10月(秋・紅葉) | 14.4% |
| 米国 | 3〜4月(春・桜) | 15.4% |
| 欧州 | 5月(GW期) | 13.6% |
| 東南アジア | 3〜4月(春・桜) | 14.4% |
台湾だけは「秋・紅葉」がもっとも人気で、欧州は「GW期」がトップ。それ以外の4市場は「春・桜」が1位という結果でした。とはいえ、この時期による違いは統計的にはさほど強くなく(p=0.228)、基本的な季節感は世界で共有されていると考えてよさそうです。
「体験したい季節イベント」の全体トップ3は、①食欲の秋グルメツアー、②お花見(桜)、③紅葉という結果になりました。自然の景色と食文化が上位を占めています。ところが国別に見ると、人気イベントの内容はさまざまです。
| 国・地域 | 1位 | 2位 | 3位 |
|---|---|---|---|
| 中国 | 食欲の秋グルメツアー | 伝統行事(ひな祭り等) | お花見(桜) |
| 韓国 | イルミネーション | お花見(桜) | 食欲の秋グルメツアー |
| 台湾 | 食欲の秋グルメツアー | 年越し・初詣 | お花見(桜) |
| 米国 | 紅葉 | お花見(桜) | 食欲の秋グルメツアー |
| 欧州 | 伝統行事(ひな祭り等) | 紅葉 | お花見(桜) |
| 東南アジア | 雪まつり(札幌ほか) | お花見(桜) | イルミネーション |
雪のない東南アジアで「雪まつり」が1位、欧州で「伝統行事」が1位となっていることから、自国では味わえない体験ほど日本の魅力として際立っていることがうかがえます。実際、国・地域差が大きく出たのも雪まつりやスキー・スノーボードなど、“自国にない体験”でした。市場ごとに推すテーマを変えることが、訪日プロモーションの鍵になりそうです。
「季節やイベントは、日本を訪れる時期を決めるうえでどれくらい影響しますか」という質問には、「非常に影響する」(16.0%)と「やや影響する」(33.4%)を合わせて49.3%が“影響する”と回答しました。季節・イベントを重視する層と、あまり気にしない層がほぼ半々に分かれる結果です。
| 回答 | 割合 |
|---|---|
| 非常に影響する | 16.0% |
| やや影響する | 33.4% |
| あまり影響しない | 32.9% |
| まったく影響しない | 17.8% |
この傾向は、国・地域・世代・性別のいずれで見てもほとんど変わりませんでした(国・地域 p=0.436、世代 p=0.229、性別 p=0.637。いずれも効果量はごくわずか)。「日本製」表示の効き方(結果③)と同じく、季節感の重視度も属性を問わず共通しているようです。
ポイント
留意点
訪日経験の有無だけは統計的に有意な差が見られました(p=0.007)。ただし説明率はわずか0.02%にすぎず、実務的な意味のある差とは言えません。統計的有意性と実質的な差は、ここでも分けて考える必要があります。
今回のAIシミュレーションが示したのは、大きく2つのことでした。ひとつは、「Made in Japan」は品質の印象づくりに効く一方、それ単独で購買を動かす力は限定的だということ。もうひとつは、日本を訪れたい人は回答のほぼ半数にのぼり、春の桜や秋の紅葉といった季節の魅力が、国を問わず共通の“行きたい理由”になっているということです。そして、どちらのテーマでも、効き方や人気度は国・地域によって差がある一方、世代や性別ではほとんど変わらない、という共通のパターンが見えました。この2つの結果を重ねると、ひとつの方向性が見えてきます。それは、市場ごとに「品質の保証(Made in Japan)」と「訪日で味わえる季節体験」を結びつけて伝えることです。
| 国・地域 | 統合的な訴求のヒント |
|---|---|
| 中国 | MIJ品質効果が最大 グルメツアー・伝統行事・お花見と組み合わせ、品質と本場体験を訴求 |
| 韓国 | MIJの購買効果が相対的に強い イルミネーション・お花見・グルメを短期旅行と結び付ける |
| 台湾 | 訪日意向・基礎購買意向とも最高 グルメ・年越し・お花見を軸に、限定商品や購入導線を強化 |
| 米国 | MIJ品質効果は相対的に弱め 紅葉・お花見・グルメに、耐久性や機能の具体的根拠を付加 |
| 欧州 | 訪日意向は最低だがMIJ品質効果は強い 伝統行事・紅葉・お花見と、素材や職人性の物語を接続 |
| 東南アジア | 購買効果は小さめ 雪まつり・お花見・イルミネーションなど自国にない季節体験を前面に |
年代や性別に合わせてメッセージを作り分ける必要は、MIJ・訪日のどちらのテーマでもほとんどありませんでした。まずは国・地域ごとに「何を主役にするか」を選ぶことが、優先順位として高いと言えそうです。
ポイント
本記事の位置づけ(大切なおことわり)
本コラムの数値は、生成AIによる仮想消費者を用いたシミュレーション結果であり、実在する各市場の人口や購買行動をそのまま推定するものではありません。36,000という大きなサンプルでは、ごく小さな差でも統計的に「有意」と出やすいため、私たちはp値だけでなく、+0.25点という実務基準・信頼区間・効果量をあわせて重視しました。実際の施策に活かす際は、実在の消費者調査や広告配信テスト、購買データによる再検証との組み合わせが前提となります。
訪日観光客へのマーケティングをお考えですか?
「何から始めるべきか分からない」「社内でどう説明すればいいか悩んでいる」
そんな段階からでも大丈夫です。
現状やご予算感を伺ったうえで、貴社にとって現実的な選択肢をご一緒に整理します。
相談できること