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2024年1月から2026年1月にかけて、訪日外国人の地方分散率は27.8%から31.7%へと上昇を続けています。韓国・台湾など近隣アジア圏で地方分散が急速に進む一方、欧米・中国では三大拠点への集中が根強く残るのはなぜか。本稿では「リピーター経験の蓄積」という切り口から、重回帰分析と傾向スコア(IPW)を用いてこの構造をデータで読み解きます。
※「地方分散率」は、あくまで入国した空港・港が地方かどうかを示す指標であり、旅行者が実際に地方を訪れたかどうかを表すものではない。
目次


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地方分散は着実に進んでいます。各年1月の地方港入国割合は、2024年1月27.8%→2025年1月28.5%→2026年1月31.7%へと上昇し、2026年に入って加速しています。注目すべきは、2025年1月から2026年1月にかけて、三大拠点(成田・羽田・中部・関西)の入国者数が実数ベースで約9.1%減少する一方、地方港は約5.8%増加している点です。これは訪日客全体の増加が地方に波及しているだけではなく、構造的な分散が始まっている可能性を示しています。ただし、これは1月単月を切り出した比較です。通年で見ると、地方港入国割合は26.5%(2024年)→28.5%(2025年)→30.4%(2026年1〜3月累計)となり、上昇の傾向は変わりませんが、伸び方はもう少し緩やかです。

国ごとに見ると、その差はかなりはっきりしています。2025年に日本へ入国した人のうち、成田・羽田・中部・関西の4空港以外から入ってきた人の割合は、韓国で49.6%、台湾で46.0%、香港で34.9%。およそ半数が最初から地方の空港や港に降り立っています。
一方、遠くから来る市場では様子が違います。同じ年で英国は11.7%、米国は6.6%、フランスは5.2%。ほとんどの人が東京・大阪の玄関口から入国し、そこを起点に旅をしています。
この違いは、「日本に来るのが2回目以降」という人の割合と重ねて見ると分かりやすくなります。韓国・台湾・香港では、再訪する人が8〜9割を占めます。香港が90.6%、台湾が87.9%、韓国が83.7%。対して英国は37.9%、フランスは33.9%と、どちらも3割台。初めて日本に来る人が多数派です。
リピーターが8割を超える市場では地方から入る人が3〜5割に達し、リピーターが3割台の市場では1割前後にとどまる。大きく見れば、両者はきれいに対応しています。
ただし細かい順番までは一致しません。香港は再訪者の割合が3か国で最も高いのに、地方から入る割合は34.9%で最も低く、逆に3か国で、再訪者が最も少ない韓国が49.6%で最も高い。何度も来ていることは地方に向かう傾向と結びついていますが、それだけで順位が決まるわけではないのです。
つまり「何度も来ているかどうか」だけでは説明しきれません。その国から地方空港へ直行便が飛んでいるか、そもそも日本に来る人数がどれくらい多いか——こうした条件も同時に効いています。だからこそ、これらの条件をそろえたうえで、リピーターであること自体にどれだけの効果があるのかを確かめていきます。
※数値はJNTO「訪日外客数時系列表【港別】」および観光庁「インバウンド消費動向調査」より作成
訪日外国人が東京・大阪などの主要都市に集中すると、混雑や地域間格差が生じる一方、地方は誘客に苦戦している。もしリピーター(複数回訪日した旅行者)ほど地方を選ぶ傾向があるなら、リピーター市場の育成そのものが地方誘客の有効な打ち手になる。
ポイント
Q 本稿が検証する問い
訪日リピーター率が高い国・地域ほど、地方空港・地方港からの入国割合(地方分散率)が高くなるのか。連続的な市場属性としてのリピーター経験と、地方分散という結果の関係を、観測可能な交絡要因を統制したうえで確認する。
ポイント
介入変数と目的変数
介入変数 Z = リピーター率(観光庁調査の初回訪日割合から算出、連続変数)
目的変数 Y = 地方分散率(JNTO港別データの地方港入国者数/総入国者数)
分析単位:重点20国・地域 × 2024–2025年の月次パネル(480セル)
※使用データはJNTO「訪日外客数時系列表【港別】」、観光庁「訪日外国人消費動向調査」の訪日回数別内訳、国土交通省の国際定期航空便データの3つである。これらを国・地域×年×月の単位で統合し、analysis_panel.csv として分析に用いた。
※本稿でいう「地方分散率」は、あくまで入国した空港・港が地方かどうかを示す指標であり、旅行者が実際に地方を訪れたかどうかを表すものではない。JNTOの港別データは入国地点しか記録していないため、成田・羽田から入国したうえで新幹線や国内線で地方へ足を延ばした旅行者は「三大拠点」に分類され、逆に地方空港から入国して滞在の大半を東京で過ごした旅行者は「地方」に分類される。したがって本稿の数値は、地方訪問そのものではなく、「地方から日本に入る」という入国経路の分散を捉えたものとして読む必要がある。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 観測単位 | 国・地域 × 年 × 月(1行=1セル) |
| サンプルサイズ | N = 480(20国・地域 × 2024–2025年 × 12か月) |
| 対象国・地域 | 韓国・台湾・中国・香港・タイ・シンガポール・マレーシア・インドネシア・フィリピン・ベトナム・インド/イタリア・英国・スペイン・ドイツ・フランス・ロシア・カナダ・米国・豪州(重点20国・地域) |
| 主な変数 | local_share(Y)/repeater_rate(Z)/log_total/log_local_direct_flights/near_asia/distance_cat/month・year |
| 推定方法 | 加重最小二乗法(weights = total、市場規模の大きいセルほど重視) |
リピーター率は0/1で切り替わる政策的介入ではなく、国・地域ごとに連続的な値をとる市場属性である。したがって「リピーター率が10ポイント高いと地方分散率が何ポイント変化するか」を直接解釈できる重回帰分析を本命の手法とした。共変量には、総入国者数(対数)、地方空港直行便数(対数)、近隣アジアダミー、距離区分、月・年固定効果を用い、市場規模や航空アクセスによる見かけの相関を極力取り除いている。
lm(local_share ~ repeater_rate + log_total + log_local_direct_flights
+ near_asia + factor(distance_cat) + factor(month) + factor(year),
data = analysis_panel, weights = total)
| モデル | 係数 | 標準誤差 | t値 | p値 | 10pt換算 |
|---|---|---|---|---|---|
| 単回帰 (Intercept) | -0.198 | 0.0131 | -15.1 | 2.41e-42 | ― |
| 単回帰 repeater_rate | 0.720 | 0.0187 | 38.6 | 6.44e-149 | 約7.20pt |
| 重回帰 repeater_rate | 0.440 | 0.0247 | 17.8 | 2.45e-54 | 約4.40pt |
単回帰:R² = 0.757/N = 480/F = 1489(1, 478 df)。 重回帰:下表参照。
| 変数 | 係数 | 標準誤差 | t値 | p値 | 有意 |
|---|---|---|---|---|---|
| (Intercept) | 0.0186 | 0.0725 | 0.257 | 0.797 | |
| repeater_rate | 0.440 | 0.0247 | 17.8 | 2.45e-54 | *** |
| log_total | -0.0182 | 0.00587 | -3.09 | 0.0021 | ** |
| log_local_direct_flights | 0.0686 | 0.00488 | 14.1 | 1.41e-37 | *** |
| near_asia | -0.150 | 0.0298 | -5.03 | 7.00e-7 | *** |
| factor(year)2025 | 0.0232 | 0.00482 | 4.80 | 2.14e-6 | *** |
| factor(distance_cat)2/3 | 0.016 / 0.018 | 0.012 / 0.031 | 1.32 / 0.57 | 0.19 / 0.57 | n.s. |
| factor(month) | 月により変動 | ― | ― | 7・8・9・10・12月で有意 | * |
有意水準:*** p<0.001/** p<0.01/* p<0.05/n.s. 有意でない。 モデル適合度:Multiple R² = 0.899/Adjusted R² = 0.895/Residual SE = 20.66(461 df)/F = 227.1(18, 461 df)、p < 2.2e-16/N = 480。
※ near_asia は単独投入では正の係数(+0.264)だが、リピーター率・直行便数と強く相関する(それぞれ0.825、0.757)ため、これらを統制すると負に転じる。近隣アジアの高い地方分散率は地理的近接性そのものではなく、その帰結であるリピーター経験と航空アクセスによって説明されることを示す。
ポイント
重回帰の結果からわかること
①共変量を加えると係数は0.720→0.440へ縮小するが、依然として正でp<0.001の高い有意水準
②リピーター率が10ポイント高い国・年では、地方分散率が約4.40ポイント高い
③log_local_direct_flights は正で1%水準有意(0.0686)。地方空港への直行便供給が地方分散の前提条件であることを裏づける
④near_asia は負で1%水準有意(−0.150)。近隣アジア市場の高い地方率は、リピーター率と直行便供給によって説明され尽くしており、「アジアだから」という独立した効果は残らないことを示す
⑤年固定効果(2025年ダミー)も有意であり、年による訪日需要全体の押し上げを分離できている
⑥地方訪問後の消費額・宿泊地などPost Treatment Biasを招く変数は共変量に含めていない
なお、リピーター率は国・地域×年単位のデータであり、同一年の12か月に同じ値を付与している。月固定効果である程度の季節調整は可能だが、国・地域固有の月内変動(旧正月やオフシーズンの違いなど)までは捉えきれず、測定誤差として係数を弱める方向に働いている可能性がある。
重回帰分析は、平たく言えば「他の条件が同じだったら」という状況を計算でつくり出す手法である。韓国とフランスを単純に比べても、両者は訪日客数も、地方空港への直行便数も、日本からの距離も違う。その状態で地方率の差を見ても、それがリピーターの多さによるものなのか、直行便が多いからなのかを区別できない。そこで、20の国・地域×24か月=480のデータを使い、リピーター率以外の条件を統計的に揃えたうえで、リピーター率だけがどれだけ効いているかを取り出す。
係数が0.720から0.440へ縮んだことは、この作業が実際に効いたことを意味する。条件を揃えない単純比較では、リピーター率が10ポイント違うと地方率は7.2ポイント違って見えた。だが条件を揃えると4.4ポイントまで縮む。つまり見かけの差のおよそ4割は、リピーターであること自体ではなく、市場規模や航空路線といった別の条件の違いから生じていた。逆に言えば、残る6割は条件を揃えても消えない差である。
大きさの感覚をつかむために、実際の2市場で計算してみる。2025年のリピーター率は韓国83.7%、フランス33.9%で、その差は約50ポイント。係数0.440を当てはめると、地方率の差は約22ポイントと見積もられる。実際の地方率の差は44.4ポイント(49.6% 対5.2%)なので、その半分程度がリピーター経験の違いで説明できる計算になる。残り半分は、地方空港への直行便がどれだけ飛んでいるかなど、他の条件の違いによるものである。(ここでは大きさの感覚をつかむための概算であり、厳密な要因分解ではない。)
p<0.001 は、「リピーター率と地方率に本当は関係がないのに、偶然これほどの差が観測される確率が0.1%未満」という意味である。関係が偶然の産物ではないことを示すが、リピーターであることが地方訪問の原因だと証明するものではない。この点は欠落変数バイアスで改めて検討する。
回帰式に入っていない変数Uが、リピーター率Z・地方分散率Yの双方に関係する場合、係数にバイアスが生じる。本分析では総入国者数・直行便数・近隣アジアダミー・距離区分・月年固定効果を統制しているが、以下の交絡因子は観測できておらず、統制できていない。
表の「バイアスの方向」とは、統制できなかった要因のせいで、リピーター率の効果が実際より大きく見えているか、小さく見えているかを表している。
見分け方は単純である。ある要因がリピーター率と地方分散率の両方を同じ向きに動かす場合、その要因が果たした働きまでリピーター率の手柄として数えられてしまうため、効果は実際より大きく見える(正のOVB)。逆に、一方を押し上げてもう一方を押し下げる要因であれば、効果は実際より小さく見える(負のOVB)。国や時期によって向きが変わる要因は、どちらとも言えない(方向不定)。
例えばビザ緩和は、訪日のハードルを下げてリピーターを増やすと同時に、地方旅行もしやすくする。両方を押し上げるので、本来はビザ緩和による部分までリピーター率の効果として数えられ、約4.40ポイントという数字はやや大きめに出ている可能性がある。
| 未観測の交絡因子 | リピーター率・地方分散率への影響 | バイアスの方向 |
|---|---|---|
| ビザ緩和・渡航規制 | 訪日しやすさを高め、リピーター化と地方訪問の双方を促進 | 正のOVB(効果を過大評価) |
| 自治体・JNTOの広告施策 | 特定市場のリピーター化と地方誘客を同時に狙う施策が多い | 正のOVB(効果を過大評価) |
| 実際の座席数・搭乗率 | 便数は統制済みだが、座席供給や搭乗率が低ければ実際の地方入国は増えない | 正のOVB(効果を過大評価) |
| 為替レート | 訪日費用・旅行予算に影響するが、方向は市場依存 | 方向不定 |
| 旅行目的(観光/ビジネス/親族訪問) | 観光目的は地方訪問を促す一方、ビジネス目的は都市部集中を強める | 方向不定 |
| 個人レベルの訪日回数 | リピーター率は国・地域単位の代理変数であり、個人ごとの実際の訪日経験は観測できない | 測定誤差(効果を過小評価) |
ポイント
バイアスの方向について
①ビザ緩和・広告施策・座席供給は効果を過大評価させる方向(正のOVB)に働く
②個人レベルの訪日回数の不可観測性・リピーター率の測定誤差は効果を過小評価させる方向に働く
③両者は逆方向であるため、本分析の推定値がどちらに偏っているかは一概に断定できない
④したがって推定結果は因果効果そのものではなく、観測可能な共変量を調整した推定値として解釈する
ポイント
Q PSMではなくIPWを用いた理由
本分析ではPSMよりIPWが適している。JNTOデータは「1国×1月=1セル」の集計値であり、個票が存在しないためである。PSMは1人1行の個票でペアを作る手法だが、IPWならセル単位に重みをかけるだけで集計パネルにそのまま適用できる。
リピーター率が中央値以上のセルを「高リピーター群」、中央値未満を「低リピーター群」とし、総入国者数・地方空港直行便数・近隣アジアダミー・距離区分・月・年から高リピーター群に入る確率(傾向スコア)を WeightIt::weightit(method = “ps”, estimand = “ATE”) で推定した。
| 項 | 係数 | 標準誤差 | t値 | p値 |
|---|---|---|---|---|
| (Intercept) | 0.0759 | 0.00603 | 12.6 | 1.33e-31 |
| treat_high_repeater | 0.113 | 0.00866 | 13.1 | 1.50e-33 |
| 確認項目 | 結果 | 解釈 |
|---|---|---|
| treated / control | 高リピーター群 / 低リピーター群 | リピーター率の中央値で二分(各240セル) |
| 最大重み | treated 5.645倍 / control 14.27倍 | control側に極端な重みがあり要注意 |
| 実効サンプルサイズ(ESS) | 240 → 173.6(treated)/240 → 119.6(control) | 重みにより実質的な情報量が減少 |
| 共変量バランス(love.plot) | prop.score・log_total等は縮小するが一部しきい値0.1超 | 共通サポートは完全とは言えない |
重回帰が「他の条件を計算で揃える」手法だったのに対し、傾向スコアは「データの重みを付け替えて、条件の揃った疑似的な比較グループをつくる」手法である。考え方の出発点は素朴で、リピーターの多い市場と少ない市場を、できるだけ似た者同士で比べたい、というものだ。
まずリピーター率が中央値42.3%以上のセルを「高リピーター群」、未満を「低リピーター群」とし、480セルを240ずつに分ける。高リピーター群には韓国・台湾・香港・中国・タイなどアジア市場が、低リピーター群には英国・フランス・米国・ドイツなど欧米市場が中心に入る。
ここで問題になるのは、この二群が最初から似ていないことである。アジア側は地方直行便が多く、市場規模も大きい。そのまま平均を比べれば、リピーターの効果と直行便の効果が混ざってしまう。
そこで各セルについて、「市場規模・地方直行便数・距離・近隣アジアか・月・年」という条件だけを見て、そのセルが高リピーター群に入る確率を計算する。これが傾向スコアである。そして、条件から見て高リピーター群に入りそうもないのに実際は入っているセル、逆に入りそうなのに入っていないセルに、大きな重みを与える。珍しい組み合わせのデータを厚く数えることで、二群の条件分布を人工的に近づけるわけだ。
結果、調整前は二群の地方率の差が14.7ポイントあったが、重みを付けた後は11.3ポイントに縮んだ。差の一部は条件の違いによるものだったが、条件を揃えてもなお11.3ポイントの差が残る。重回帰とは計算の道筋がまったく違うにもかかわらず、同じく「リピーター率が高いほど地方分散が進む」という方向の結論が得られたことになる。
最大重み14.27とは、あるセル1つが14セル分として数えられているという意味である。条件的に非常に珍しい市場が推定結果を大きく左右しうる。実効サンプルサイズ(ESS)はその帰結を数値化したもので、低リピーター群は240セルが実質119.6セル分、高リピーター群は173.6セル分の情報量まで目減りしている。データの半分近くが、重み付けの過程で実質的に失われた計算になる。
共変量バランスの図(love.plot)を見ると、月ダミーと年ダミーは重み付けによってほぼ完全に調整されている。一方で、傾向スコアそのもの、近隣アジア市場ダミー、地方直行便数、総入国者数は、重み付け後も標準化平均差が1を前後したままであり、目安の0.1には遠く及ばない。とりわけ傾向スコア自体が偏っていることは、二群の条件分布に十分な重なりがないことを直接示している。

※近隣アジア市場ダミーと距離区分は対象国の分類がほぼ重複しており、図の複数項目は同一の偏りを別の形で示している。
原因ははっきりしている。アジア市場と欧米市場では、地方直行便の数も市場規模もあまりに違いすぎて、比較できる「似た者同士」がそもそもデータの中に十分存在しない。これは計算の失敗ではなく、データの構造そのものから来る限界である。
したがって本分析では、IPWの11.3ポイントを主たる推定値としては採用しない。重回帰の結果が別の考え方からも支持されるかを確かめる、補助的な確認として位置づける。
ポイント
IPWを本命にしなかった理由
①リピーター率を中央値で二値化するため、連続的な情報が失われる
②国籍間で規模が約1,000倍異なり、極端な重みが生じやすい(99%トリミングでも点推定は0.113→0.114とほぼ不変)
③log_total など一部の共変量は調整後も絶対平均差がしきい値0.1を上回り、共通サポートが完全とは言えない
④それでも係数は重回帰(+4.4pt/10pt)と同じ正の方向であり、補助的な確認としては有効
分析の信頼性を担保するうえでは、採用した手法だけでなく、あえて用いなかった手法とその理由を示しておく。パネル構造があるため一見DIDが使えそうに見えるが、以下の理由でDID・RDDはいずれも用いていない。
| 手法 | 不採用の理由 |
|---|---|
| 差の差分析(DID) | リピーター率は0/1で導入される政策ではなく連続的な市場属性であり、処置開始時点・処置群と対照群の区分自体が定義できない。平行トレンドは「検証が難しい」のではなく、群分けが成立しないため原理的に検証不可能。 |
| 回帰不連続デザイン(RDD) | 処置の有無を分ける外生的な閾値ルールが存在しない。リピーター率50%等の境界を設けても分析者の便宜的な区切りに過ぎず、その境界で旅行者行動が不連続に変わる根拠がない。 |
| 手法 | 位置づけ | 採用理由・不採用理由 |
|---|---|---|
| 重回帰分析 | 本命 | Zが連続変数であり効果の大きさを直接解釈可能。共変量を同時に統制できる |
| IPW | 補助 | 集計パネルに適用可能で重回帰と同方向の結果。ただし連続情報を失う |
| PSM | 不採用 | 個票を前提とする手法であり、国・地域×月の集計データには不向き |
| DID | 不採用 | 処置時点・処置群の区分が定義できず、平行トレンドの検証が原理的に不可能 |
| RDD | 不採用 | 処置の有無を分ける外生的な閾値ルールが存在しない |
ポイント
本分析の限界
①ビザ緩和・為替レート・広告施策・座席数や搭乗率など未観測の交絡が残る
②リピーター率は年次データであり、年次値を12か月に一律割り当てしている(月内変動を捉えられない)
③地方空港直行便数は夏ダイヤ・冬ダイヤの2区分の値であり、月別の実運航実績ではない
④分析対象は重点20国・地域に限られ、小規模市場への一般化は難しい
⑤地方分散率は入国した空港・港の所在地に基づく指標であり、実際の訪問先ではない(例:成田空港入国後に地方を周遊した旅行者は「三大拠点」に計上される)
本命の重回帰分析では、共変量を統制したうえでリピーター率が10ポイント高い国・年で地方分散率が約4.40ポイント高いという結果になった。補助的に行ったIPWでも、高リピーター群は低リピーター群より約11.3ポイント高く、同じ方向の結果が得られている。二つの推定方法は前提が異なるため単純比較はできないが、いずれもリピーター率と地方分散率の正の関係を支持しており、特定のモデル設定に依存した偶然の結果ではないことを裏づけている。
ポイント
ビジネス・政策への示唆
①リピーター市場の育成は、地方誘客に結びつく可能性がある
②リピーターの多い国・地域を重点市場とし、地方空港からの二次交通や多言語観光情報の整備が地方訪問につながりやすい
地方誘客の戦略においては、リピーター比率の高い国・地域(韓国・台湾・香港など)を重点市場と位置づけることが有効である。本分析が示したのは、リピーター率の高い市場ほど地方からの入国割合が高く、その関係は市場規模や航空アクセスを統制した後も残るという事実である。主要都市を一度訪れた旅行者ほど次の訪問先を地方に求めるという行動変化がその背景にあると考えられるが、本データは入国地点しか捉えていないため、個人の旅程レベルでこれを確認することはできない。
ただし、地方訪問への関心が実際の訪問行動に結びつくかは、現地での移動手段と情報環境に左右される。第一に、二次交通の整備が不可欠である。二次交通とは、地方空港や新幹線駅などの玄関口に到着した後、目的地まで移動するための交通手段を指し、空港連絡バス、鉄道への接続、レンタカー、タクシー、周遊バスなどが該当する。直行便が就航していても、空港から観光地までの移動手段が乏しい、運行本数が少ない、外国語での予約や決済ができないといった状況では、地方訪問は現実的な選択肢になりにくい。第二に、多言語による観光情報の整備が求められる。どこに何があり、どのように行き、どの程度の時間と費用がかかるのかが母国語または英語で把握できなければ、そもそも訪問先の候補として認識されない。
すなわち、リピーター市場は地方訪問の意欲を持つ層であり、二次交通と多言語情報はその意欲を実際の訪問へ変換するための条件である。両者が揃って初めて、地方分散は実効性を持つ。
ただし本分析は観察データに基づくものであり、因果効果を完全に断定するものではない。ビザ緩和、為替レート、広告施策、旅行目的など観測できていない交絡が残っている可能性がある。今後は「①国・地域別かつ月別のリピーター率、②個人単位の訪日回数と訪問地域を結びつけたデータ、③直行便の座席数・搭乗率・月別運航実績、④為替レート・ビザ制度・広告施策の国・月単位データ」の4点を追加することで、より因果推論に近い形で検証できる。
ポイント
まとめ
リピーター率の高さは、観測可能な共変量を調整した後も地方分散率の高さと正の関係を持つ。リピーター経験の蓄積が地方訪問を促すという仮説と整合的であり、リピーター市場の育成は地方誘客の実行可能な戦略になりうる。
ここまでの分析でわかったのは、次のことである。リピーターの多い市場ほど、地方から入国する人が多い。そしてこれは、「アジアの国は近いから」でも「大きな市場だから」でもなかった。市場の大きさ、地方空港への直行便の数、日本からの距離、季節、年——こうした条件をすべて揃えたうえで比べても、リピーターの多さと地方分散の結びつきは消えなかったからである。リピーター率が10ポイント高い市場は、地方分散率が4.4ポイント高い。計算の道筋がまったく違うIPWでも、同じ向きの結果が出た。
ただし、これで「リピーターになれば地方へ行く」と証明できたわけではない。使ったのは実験のデータではなく、現実に起きたことを後から集めたデータである。各国のリピーター率は、誰かが実験のために割り当てたものではなく、その市場が何十年もかけて自然に形づくってきたものだ。だから、リピーターが増えたから地方へ行くようになったのか、それとも地方へ行きやすい市場だったからリピーターが育ったのか——その向きを、このデータだけで決めることはできない。
測れていない要因も残っている。ビザの緩和、円安の進行、自治体やJNTOの広告、そもそもの旅行の目的。どれもリピーター率と地方分散率の両方を同時に動かしうるが、今回のデータには入っていない。これらが働いているとすれば、4.4ポイントという数字はリピーター経験の力を実際より大きく見せていることになる。
逆に、実際より小さく見せている可能性もある。地方空港への直行便の数を、条件として揃えてしまったことである。航空会社は、需要が見込める市場に路線を開く。韓国や台湾から地方空港への便が多いのは、その市場から地方へ行く人が多いと確かめられたからだ。とすると、順番はこうも考えられる。まずリピーターが増え、地方へ行く人が増え、それを見た航空会社が路線を開いた——。もしこの順番なら、直行便はリピーターの「原因」ではなく「結果」である。結果のほうを揃えてしまうと、リピーターがもたらした効果の一部まで一緒に消してしまうことになる。そこで、直行便を条件から外して計算し直してみた。すると係数は0.440から0.653へ上がった。
この二つは、どちらかが正しくてどちらかが誤りというものではない。測っているものが違う。0.440は「路線の状況が同じだったとして、リピーターであること自体がどれだけ効くか」。0.653は「路線が増えることも含めて、リピーターが増えれば最終的に地方分散がどれだけ進むか」。前者は純粋な効果、後者は波及も含めた効果である。
ただし0.653をそのまま信じることもできない。直行便を外したモデルでは、市場の大きさの効きかたが逆向きに変わってしまった。直行便が説明していた分を、リピーター率が代わりに引き受けてしまったのである。0.653は、上限としてこのあたりまではありうる、という目安と見ておくのがよい。本レポートでは、他の要因の影響をできるだけ取り除くことを優先し、控えめなほうの0.440を主な数字として採用した。
それでも、この結果が実務にとって無意味かといえば、そうではない。「リピーターの多い市場に地方旅行を提案する」という判断は、因果関係が確定していなくても成り立つ。リピーターが多い市場ほど地方へ行く人が多い、という事実さえあれば、どの市場から地方向けの商品を投入するかという優先順位はつけられるからだ。
因果関係の確からしさが効いてくるのは、別の場面である。「リピーターを増やせば地方分散が進む」という前提で、リピーター獲得そのものに予算を投じる場合だ。ここでは順序が問題になる。リピーター率と地方直行便数の相関は0.84と非常に高く、両者を切り離して考えること自体が難しい。もし地方へ行きやすい環境が先にあって、リピーターはその結果として育ったのだとすれば、リピーター獲得だけに資金を投じても地方分散は進まないことになる。リピーターの育成と地方路線の整備は、どちらが先かを争うものではなく、組み合わせて進めるべきものである。
本分析が捉えられたのは、地方分散という現象のごく一部にすぎない。それでも、リピーターの蓄積が地方への広がりと結びついているという事実は、今後の施策を考えるうえで一つの手がかりになるはずである。官民が連携しながら、データに支えられた持続可能な観光戦略が育っていくことを願いたい。
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現状やご予算感を伺ったうえで、貴社にとって現実的な選択肢をご一緒に整理します。
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